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ロリでオタでも

旧名・ロリでオタでも早稲田を目指す

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愛を知った鬼②

フラフラと視界が揺らぐ。
目を瞑っても、グルグルと世界が回っている。
頭は霧が掛かったかのようにぼんやりとしている。
腕に力を入れようとしても少しも入らない。
こりゃ死んだか、と僕は漠然と思った。

けほ、

ただ咳だけが出た。
それで僕はまだ自分が生きている事に気が付く。
突然、体が浮き上がった。
ついにお迎えか、そう思って穏やかな気持ちでそれを受け入れると、不意に叩きつけられた。
さらに扉の閉まる音がする。
そうして、僕は気が付いた。
追い出されたのだ。
僕はこの家の子ではないから。流行病《はやりやまい》を移しては悪いから。
そう気付くと、自然に気持ちが楽になった。
あんまりにも家の中が息苦しかったからかもしれない。



ありえない、と思った。
自分がこうして柔らかな布団に寝させられている事実が信じられなかった。
ここが黄泉か、そんなことを一瞬思ったりもしたが、ズシリと響く腹部の痛みでここが現世だと確信する。
生きている。どういうわけか、俺は生きている。
しかも
「んな馬鹿な……」
痛みの軽さを不審に思い傷口に手を当てると、たしかに痛みは残っているもののすでに傷口自体は塞がっていた。
しかも、ご丁寧な事に包帯まで巻かれている。虫の息の忍びを拾って看病する馬鹿が、この世にいるだなんて……俺は驚きを隠せない。
身を起こし周囲を確認すると、布団の他には何もない四畳半の部屋だった。障子越しに注ぎ込まれる初夏の日差しだけが、殺風景な風景を照らし出している。
どこなのだろう。これではまるっきりわからない。
それだけじゃない。ここの家主が俺を助けた理由もまたわからない。そしてそれは当たり前の話だが、家主に聞かない限りわかりようがないだろう。
ただ1つわかることは、この戦国の世で生き倒れをいちいち助けてやるお人好しはいない、ということだけだ。きっと何か裏があってのことに違いないのだ。
となると、選択肢は限られる。
そのまま脱出か、または家主から何かしら聞き出してから脱出か、大きくわけて2つ。
労力を考えれば迷わずそのまま脱出だが、俺には目的がある。
要人の暗殺。たとえ確率は低くとも、ここはそのごく近い地域のはずだから、要人の居場所について何か知っていることは考えられる。
俺は起きあがり、ズシリとした痛みを堪えながらこの家の者が来るのを待った。
じきに2、3人武器を持った兵士がやってくるに違いない。
そうして、俺を脅し何かしらの要求をすることだろう。
だが
俺はほくそ笑む。そうはいくまい。逆にこっちが奴らを利用してやるのだ。
1人を残して始末をし、その後ゆっくりソイツを尋問し口を割らせればいい。
それで何も知らなければ殺せばいい。実に簡単だ。
丸腰であるのは不安だが、このような屋内であれば何も問題はいらない。
室内戦は忍びの専門分野である。
ほどなくして、足音が聞こえた。すす、と廊下を歩く音が近づいてくる。
俺は身構えた。まず、出会い頭に……
いや、妙だ。音が足音が1つしかないのだ。よほど重傷である俺を見くびっているのだろうか。
考える間もなく、ガタと襖の開く音がした。俺は飛び出した、まずは1人。
「!?」
畳に叩きつけ、相手の腰に差してある刀を抜こうとして固まった。
刀がない。そんなわけがない、そう思い腰をまさぐるもソイツの腰には武器1つ付いていない。
さては懐刀か。そう思い、今度は懐に手を入れる。
「!?」
柔らかい。信じられない事だが、何やら得体の知れない柔らかなモノが相手の懐にはあった。
俺はとっさに考える。新種の爆薬ではないか、と。
ならば取っておかなければ、俺の命を脅かすものになりうる。
ふにゃり
ふにゃり
しかし引っ張ろうにも、それは一向に取れない。
そして、不思議なことにさらさらと滑らかに指に馴染み、何だか触っているだけで一種の安らぎが……
ん?わからなくなる。本当に一体、どうして……
何だ、何なんだ。これは一体、何なんだっ!わからない。何であるか、まったくもってわからない。
「お、重いです。あと、その……その触るのやめてくださると、とても助かります……」
それは女の声だった。
俺は再び固まる。つまりはこの俺が組み伏した相手とは……
紺色の単衣にすらりと伸びた絹のように滑らかな黒髪。小さく華奢な背中。
それらもまた1つの事実を証明していた。
間違いなくこの人物は女性であり、どこかの兵士ではない。そう、兵士ではない。
ようやく頭が落ち着いてきた。思ったよりも状況が良いんじゃないだろうか。
「1つ聞いていいか」
「は、い?」
「1人か?」
「いえ妹がいます。あ、あと懐から手を抜いていただけると……」
「妹と2人か?」
「そうです。2人で暮らしています。あ、あと懐から手を……」
「そうか」
俺だって鵜呑みにするほど馬鹿ではないが、こうして女1人で俺を見回りに来たところからして、少なくともこの屋敷に大した人数がいないことには間違いないだろう。
「あ、あの」
申し訳なさそうに女は言う。
「ん?」
「手を胸から離してくれると……とっても助かります」
そう言われて初めて自分はとんでもないとこに手を入れていたことに気が付く。
不可抗力とは言え、いや、不可抗力と呼んで良いのか少し疑問だが、どちらにせよ、不味いことをしたには違いない。
「すまん」
だから、素直に謝った。
懐から手を戻し、女の背中からも離れ、少し距離を取りながら俺は女の真っ正面に座る。手には若干女の胸の感触が残っている。
吸い付くような柔らかさ……忘れようにも忘れられない。
女の様子が気になり見てみると、女は顔を真っ赤にしながら乱れた着物の襟を正していた。
こんなに羞恥するなんて、正直思っていなかった。
申し訳ないことをした、という気持ちが改めて沸き上がってくる。
「警戒してたから……仕方がないことなんだ」
半分自分にも言い聞かすように俺は言う。
どうにもこういうのは苦手なのだ。
同僚の忍びの中では女に乱暴するものも少なくないが、俺はそういうことに不慣れだった。
「良いんです。別に、どうってことないですから」
目に微かに涙を滲ませている姿は、どう考えても『どうってことあった』顔である。
歳は17、8歳くらいだろうか。
女を改めて見れば、陶器のように白い肌は作り物かというほど美しく、長く伸びた良質な絹のような黒髪もその美しさに磨きを掛けており、総じて彼女は恐ろしいほどの美人だった。
そんな美人の胸を触っていたのを思うと、何だか不思議な気持ちになった。
嬉しくないと言えば嘘になるが、しかし、素直に喜べるはずもない。
「改めて聞くが、何であんたは俺を助けたんだ?」
何とも居たたまれなくなったので、話題を変えることにした。
「何で、と言われましても」
女は俺を不思議そうに見る。何か変なことを言った心当たりはないのだが。
「あなたが倒れていたからでしょう?」
女はさも当たり前のように同意を求める。しかし、少しも当たり前ではありはしないのだ。
この戦国の世、せめてもの情けで生き倒れにトドメを差すことはあっても、ソイツを介抱するだなんて……甚だ信じがたい。
俺は真意を問うべく、女の目を見た。裏があるのならば、少しは表情に表れるはずだ。
見た先に彼女の瞳があった。不思議な瞳だった。
俺を見ているかのようで俺を見ておらず、見ていないようでその心の奥底まで見透かしているかのような、深いあんまりに深い瞳。
それでいて、完璧としか言いようが無いほど美しく完成された瞳の色と形。
得体が知れない。今までに見たこともないほど、それは異質なものだった。
「どうかされましたか?」
何の言葉も返さない俺を不審に思ったのか、怪訝な表情で彼女は言った。
「い、いや何でもないんだ。それはそうと、あんたが俺を助けたのか?」
「いえ、妹が拾ってきました。ここまで運ぶのは大変だったみたいです」
「ふむ……」
まずありえない話だが、本当にこの家には姉妹しかいないのかもしれない。
まあ、まるきり彼女が嘘を付いている可能性も拭えないわけだが。
「とりあえず、礼を言う。じゃ、これで」
そそくさと俺は立ち上がる。もうこの場に用はない。
「えっ?ま、待ってください!まだ傷が完全に……」
そんな声に耳を貸すわけもなく、まっすぐ出口に向かう。
「待ってください。待ってくださいってば!……あうっ!」
素っ頓狂な声が聞こえて俺は思わず振り返える。
「……それは何かの冗談か?」
女は俺の遙か横でずっこけている。引き留めるのであれば、袖を掴むなりするはずである。
隣に来てずっこける意味はない。
「そっちでしたか」
そう言って、よたよたとこっちに向かってくる。何となく察しが付いた。
彼女は声を頼りに動いているのだ。
「あ、あれ?」
足音を立てずに後ろに回り込むと、案の定彼女は混乱した。
一心不乱に床を触り俺がどこにいるのか探している。そのうち両手が何かを掴もうと動くようになる。
「あれ?たしかにここから声がしたのに」
尚も空を切る両手を見て、いい加減可哀想になってきた。
「こっちだ」
一瞬、ビクリと華奢な背中が跳ねて恐る恐る彼女は振り返る。
「後ろにいらしたのですか?」
改めて女の目を見た。俺を見ているようで見ていないその瞳の意味がようやくわかった気がした。
「目が見えないのか?」
「はい……」
小さな声で彼女は言った。
どこにも外傷がないところからして、病か何かで見えなくなったのだろうか。
「何だ?病か?生まれつきなのか?」
「え、ああ、そんな気にする問題でもないので。それよりもう少しここにいた方が、いえ、いてください。看護した者としましてもこのまま出て行かれては心配です」
上手く話を逸らされた気がする。
でも、それほど掘り下げても仕方がないことなのでそれ以上聞くことやめた。
重要なのは余計なことを聞かないことである。
「とは言ってもな」
ここに長く居座るわけにはいかないのだ。
任務に期限などはないが、あまりに遅いと死亡扱いされ後続が送られてきてしまう。
「何をしにいくかは知りませんけど、その怪我では充分な働きができないと思いますよ」
言われてみればそれもそうである。だが、たった一人の人間を暗殺するのには何ら問題ないレベルのものでもあった。
俺は頭を捻る。一体どうしようか。
くー
何か音がした。そう思ったら、自分の腹がやけに軽いことに気が付いた。
そういえば、この怪我もそもそも空腹に負けた結果が招いたモノだった。
そして、その空腹はまだ満たされていない。
「ふふっ、お腹減ってるんですね」
クスクスと彼女は可愛らしく笑う。何だか妙に気恥ずかしくなった。
「と、とりあえず、飯を頼む」
看護されてる身分で我ながら随分偉そうである。
「わかりました。あ、そういえばお名前は?」
「名前?」
鬼、と言いかけて俺は口を噤む。それは伊賀の忍者の中での通り名だ。
通り名でない、俺の本名は……
すぐには出てこなかった。他人にその名前で呼ばれたことがほとんど無いせいもあるし、自分自身もその名前に愛着がないせいでもあった。
「スギ」
「スギ?」
「スギの木の根本で拾われたからスギだ。何とも味気ない名前だろう?」
自嘲気味に俺は笑う。
俺は捨て子なのだ。そのため身内というモノが1人もいない。
そしてまた俺の死を悲しむ者も、俺を愛する者も。
「拾われた……す、すみません。何か失礼な事聞いてしまって」
女はぺこぺこと大袈裟に謝る。
「気にするな。俺は孤児であることをどうとも思っちゃいない。それより、あんたの名前は何て言うんだ?」
「私は葵(あおい)と言います」
「葵……」
一瞬、耳を疑った。まさか、だ。棚からぼた餅とはまさにこのことを言うのだろう。
思わず笑みが零れてしまう。
日向葵。それは他でもない俺が殺さなければならない要人である。
「どうかしましたか?」
言葉の端から何か察したのだろう。小首を傾げ、不思議そうな顔で聞いてくる。
「いや何でもない。妹は何ていうんだ?」
「若菜(わかな)です」
妹の方は暗殺の対象になっていなかった。
「若菜か。妹の方に礼を言っておいてくれるか?」
「はい。きっと若菜もスギさんが回復して喜んでいると思いますよ」
そう言って、葵は微笑んだ。邪気の無い笑顔である。
まるで、心の底から俺が回復してくれたのを安堵しているかのような笑顔。
何故だか心が揺らいだ。
「……しばらくここにいていいか?」
「はい、構いませんよ。むしろ怪我が治るまでいてください。看護したものからしても、今出ててかれるのは辛いです」
「ありがとう」
殺すのはいつでもできる。こうして何の警戒も無しに俺の看護をしてくれているのだ。
赤子の手を捻るのよりも簡単である。
だからこそ、ついでならば怪我を完全に治してからそう思っただけだ。
他意はない。殺すのを躊躇った(ためら)などそんなことは……ない。
「では、夕ご飯までは時間がありますから。ゆっくりしていってくださいね」
にこり、と微笑んで葵は部屋を出ていく。不思議なことにその足取りに迷いは見られない。
「目は見えないんじゃないのか?」
「慣れればどうってことないんですよ。ただ……」
「ただ?」
「外には出ることができません。広すぎてとても慣れる事なんてできませんから……」
寂しそうにそう言って、葵は部屋を出ていった。
1人になった部屋の沈黙を蝉の声が埋めていく。
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| 雑記 | 02:58 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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愛を知った鬼③

部屋の前を通る足音で目が覚めた。
足音は2つ。ついに兵士でも連れてきたのか、とも思って一瞬警戒するが、他に思い当たる節があった。
妹がいると言ったのを思い出す。おそらくソイツを一緒につれてきているのだろう。
「ご飯です。まる3日何にも食べてないのでしょう?」
「……3日も寝てたのか」
それは初耳だった。やはりそれほどの大怪我だったのだ。
もう一度、傷口に手を当てる。触るとたしかに痛みが走る。が、傷は塞がっている。
考えれば考えるほど、妙だ。3日で傷が塞がるだなんて……
そこでふと思い出した。要人暗殺の仕事を受けたときに聞かされたことだ。
あれにはたしか、異能者と書いてあった。この不自然な回復もその力なのだろうか。
「んで、葵。お前の後ろにいるヤツは誰だ?」
あえて異能の事には触れず、葵の後ろにいる人物について尋ねる。
大方妹だろう。彼女は葵の陰に隠れるように、姿を隠していた。
「若菜、スギさんに挨拶は?」
そう促され若菜はぴょっこりと、顔の半分だけ葵の後ろから出す。
そして、おどおどとこちらを伺い出した。その猫のようにつぶらな瞳は小動物のようで可愛らしい。
「すみません……人見知りが激しくて」
「そのうち慣れるだろ。それよりも改めて礼を言う。若菜とか言ったか、ありがとな」
しっかりと若菜を見つめて俺は言った。
つぶらな瞳がサッと見開いたかと思うと、そのまま顔を引っ込めてしまった。
「嫌われた……のか?」
「いえいえ照れてるんですよ。ね、若菜?」
「照れてなんかないっ!」
葵の後ろから聞こえる怒ったような声。なるほど、たしかに照れている。
それに対して苦笑いで答えながら、俺は葵の持ってきた膳へと手を伸ばした。
ご飯とみそ汁に総菜が3つ。なかなかしっかりとした夕食である。
「いただきます」
早速箸を付ける。まず、何かの獣の肉を炙ったモノに箸を伸ばし……
そこで俺は視線に気がついた。
見ている。葵の陰からまた若菜が顔を出し、俺の箸を目で追っている。
んん、何か食べづらいな……
そうは思いつつも、やはり空腹には勝てず獣の肉を口に運んだ。
毒が入ってやしないか、とも疑ったが殺すならもうとっくに彼女らは俺を殺しているはずだ。
大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かせながら噛み締める。
「美味しい……」
思わず声が出るほど美味しかった。
歯を立てると肉汁が口いっぱいに広がり、俺の空っぽの胃に染みてくる。
「良かったっ!」
パアッと華が咲いたかのように葵は微笑む。
「スギさんの口に合うかどうか、少し不安だったんですよ」
葵は良かった、良かったとしきりに頷く。
こんな他愛もない一言でこうも喜ばれるなんて……彼女はおそろしく単純な女なのだろう。
でも、そうは言ってもそうして笑顔を向けられることに悪い気はしなかった。考えてみれば、こんな笑顔を向けられるのは生まれて初めてかもしれない。決して大袈裟ではなくて。
続いて山菜をおひたしにしたようなモノを口に運ぶ。
見た目は正直あまり良いとは言えない。しかし、さっきの肉料理があの味だ。
決して不味いこともないだろう。
そう思っていたのだが……
「うぐっ……」
思わず口を覆う。何とも言えないすっぱさと渋さに苦み。
およそ人間の味覚が感じるすべての不味さを、俺の舌は感じ取った。
毒草なのかとそう思い見てみるが、どっからどう見てもその山菜はなじみのある山菜で……ゼンマイ?だったかそんなのだ。
これはおそらく調理の具合で、こんな得体のしれない代物になってしまったのだろう。
「んっ…」
ごくりと飲み込む。喉を通る感覚すらもどこかしら不快なものだった。
ふいに視線を感じた。その方向に目を向ければ、相も変わらず若菜が俺を見ていた。
その瞳は明らかに怒りを含んだものである。葵の陰から見える片頬も不機嫌に膨らんでいる。
どうやら、これは若菜の料理らしい。
「料理は姉妹で作ってるのか」
「はい。私は目が見えないので何かと不便がありまして、若菜にだいぶ手伝ってもらってます」
その目が見えない葵よりも若菜は料理が下手なわけか、気の毒と言わざるおえない。
「その、山菜のおひたしは若菜が作ったのですけれどどうでした?」
「ん、ああ……これか」
何と言えば良いのだろうか。どうせ、若菜は俺の表情から料理に対する評価に気がついているが……
んー、しかし正直に言うべきか。
「なかなか良い味だな。最初は食べ慣れない味に違和感を感じたが、食べてみると意外に悪くない。いや、むしろ個性的なだけに癖になるな」
むげに傷つけてもしょうがない。そう思い俺は嘘を付いた。
それに何より若菜には、命を助けられた恩がある。その恩を仇で返すようなマネはしたくなかった。
俺はさりげなく若菜の顔を伺った。
意外そうな顔をした後、彼女は照れたように笑った。いい笑顔だ。
「気に入っていただけました?何ならもっといりますか?山菜のおひたし」
「あ、いや、いらないいらない。葵達の食べる分が無くなったら困るからな」
「良いんですよ、遠慮なさらずに」
にこにこと邪気のない笑顔で葵は俺の小鉢を連れ去っていく。
おかわりはご飯だけでなく、小鉢の中身まですべて盆の上にあるらしく、その場で山菜のおひたしを山盛りについでくれる。
……この女はどうやら俺を殺す気のようだ。
「良かったね、若菜。やっぱり料理て言うのは、練習しているうちに上手くなっていくもんなんだよ」
ね、と葵と若菜が見つめ合って楽しそうに笑い合う。
それを尻目に俺は小鉢の中身を頬張った。
そうして俺は思った。嘘も方便なんてことわざは、とんだでたらめだ。



食事を終えてしばらく立った。
時間にすれば半刻(1時間)ほどか。おそらく今頃姉妹は食事を取っているはずだ。
屋敷の中をよく探るには、今以上の時はない。
夜遅すぎれば、それはそれで変な警戒をされてしまう。
俺は立ち上がる。本当に姉妹以外に人はいないのか。この屋敷の構造はどうなっているのか。
調べたいことは山ほどあった。
縁側の襖を開ける。少し欠けた満月が早速俺を出迎えてくれた。
思えば、この怪我は空腹とコイツにやられたようなものだった。
しみじみと傷口をさすりながら、足音を殺し縁側を歩く。
ほどなくして角に突き当たり、またすぐに角に突き当たり……台所や湯殿に向かうと思われる渡り廊下があり……
もとの場所に戻ってきた。どうやら、正方形の小さな屋敷のようだ。
この大きさだと、姉妹以外の人間が住むには少々狭い。
それに屋敷を回っても、姉妹が食事をしていると思われる部屋以外から声という声はしなかった。
となると、やはり本当に姉妹以外は住んでいないのだろうか。
もう一周縁側を周り、姉妹が食事をする部屋の前で立ち止まる。
確固たる証拠を獲るための情報収集である。
「はい、姉様(ねえさま)」
「ありがとう。ごめんね、苦労かけて」
「別に……こんなの全然苦労じゃないから」
ぼそりと照れたような若菜の声。
「そういえば、スギさん喜んでくれたみたいだね、若菜の料理」
「ううん。あれは……たぶん嫌がっていたと思う」
「どうして?美味しいって言ってたのに」
「それはたぶん、スギって言う人が私を傷つけたくなかったから」
どうやら見抜かれていたらしい。
それはそうか、初めにあんなに露骨に嫌な顔をしていたんだから。
「どうしてわかったの?」
「頑張って美味しそうに食べていたけれど、最後の方になるとさすがに顔が蒼くなってたから……スギって人相当我慢していたと思う」
「……悪いことしちゃったな」
「止めた方が良かった?」
「うん。ちょっと可哀想だよ、スギさん」
「……今度から私の作った料理は外そ」
しゅんとした声で若菜は言う。結局、余計に傷を付けてしまったのかもしれない。
「それにしても、スギさんは優しい人なんだね」
ふふっ、と嬉しそうに葵が言う。
俺は思わず苦笑してしまう。
じきに俺に殺される人間が俺の事を優しいだなんて、とんだお笑いだ。
俺が優しいだなんてありえない。
「うん。ホントに優しい」
「ふぅん」
「なあに?姉様」
「いや、やけに声に力が入ってるなぁ、って」
「そ、そんなことない。ただ、優しいから優しいって言っただけで、そんな、別に……」
若菜はあたふたしながら言う。
俺は立ち上がった。
この微笑ましい姉妹の会話を聞いたところで、めぼしい情報が得られるとは思わなかった。
縁側から下り今度は庭を散策する。
庭は屋敷の南を中心に広がり、井戸と庭の先に小道がある以外は特にこれといったものは見あたらない。
次に屋敷の東に回ってみるとただひたすら鬱蒼とした森が茂っていた。
西や北も同様で、それは嫌が応にもここが人里を離れたところであることを、教えてくれた。
小道をしばらく歩いてみるが、この小さな屋敷以外に建物は見あたらなかった。
おそらくどこかの街道に通じていて、ここから食料を調達しにいってるのだろう。
そこで俺はようやく確信に到った。本当にこの屋敷には姉妹以外いないのだ。
葵にしろ、若菜にしろ、馬鹿なヤツだ。どうして、彼女らは俺を助けてしまったのだろう……

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愛を知った鬼①

殺した人間の顔はいちいち覚えていない。
数だって、とうの昔に数えるのを止めた。
覚えるのにも数えるのにも、その数は多すぎたのだ。
そんな俺を里の誰もが畏怖して、鬼と言った。
鬼の刀に迷いはなかった。だから、どんな人間でも慈悲もなく斬り捨てた。
命は頗る軽いものだった。



初夏の日差しが弱まっている。
湿った風の臭いに気が付いて空を見上げると、灰色の雲が空の半分を覆っていた。
一雨来るな。
食料を盗み出そうとしている今、雨音によって音が紛れるのは思いがけない幸運だ。
西の方へと視線を向けて、俺は夜が来るのをひたすらに待った。



時は戦国。世は無常。大小様々な大名達が『我は我は』と群雄割拠し、日々争いを繰り広げている。
そういう世の中、俺は忍びをやっている。忍びとは暗殺、諜報、偵察、合戦、窃盗。報酬さえ貰えれば、何でもやる人間のことをさす。
しかし、もちろんそんなもの個人でやるには限度というものがあって、忍びには大きくわけて2つの組織があった。
伊賀と甲賀である。俺はその前者、伊賀に所属している。
そこから俺ら忍びは仕事を与えられ、その報酬を日々の糧としているのだ。
今回与えられた仕事は簡単だった。
山に逃げ込んだ日向葵という要人をちょいと暗殺。それは早ければ、3日も掛からずに終えている仕事のはずだった。
しかしどういうわけか、逃げ込んだ要人は見つからず、いつのまにやら二週間は無下に過ぎてゆき、用意した食料はついに底を付いた。
となれば、やることは一つしかなく。
夜がすっかり根を下ろしたのを確認しつつ、俺は立ち上がった。
頬にポツリと一滴雨粒が落ちる。見上げれば、灰色の雲は空のすべてを支配していた。
これ以上ないほどの好条件である。



塀を悠々と越えて、山城の城内へと入る。山間部に立つ山城のため、城と言っても高い建物は見あたらない。大小様々な建物がまばらに立っているばかりである。
雨のお陰で篝火(かがりび)は1つ残らず消えていて、兵士の姿もほとんど見えない。
もともと国境でもなければ、国に取っての重要な拠点でもないと言うこともあるのだろう。これを見る限り兵士の士気も著しく低い。
念のため反りのない忍刀に手を掛けつつ、城内を忍び足で探る。
ほどなくして、黒々とした蔵に出くわした。これが恐らくは食料庫だろう。
遠目からよく見ると、兵士が2人ほど警備しているのが見て取れる。さすがに食料庫ばかりは、雨が降っても警備を解くことはないらしい。
しかし、2人の警備など無いに等しい。
俺は地面を蹴り一気に2人の兵士との距離を詰めた。
夜目が利かぬ彼らは容易に俺の接近を許した。
「ぬおっ!」
1人の兵士の間抜けな顔が宙に舞う。そして、刀を翻すようにしてもう1人も袈裟に斬る。
ボテッと2つの死体を倒れる音を確認して、俺は刀を納めた。
2つの命が散ったのだ。
呆気ない。本当に呆気ない。
緊張も罪悪感も無ければ、胸の高鳴りさえもない。ただただ空っぽだった。
その中に唯一ある感情を言うならば、何も感じないほど殺しに慣れた自分へのほんの少しの悲しさ。ただそれだけだった。
ザッ
不意に音がした。
した。気が付いた時にはもう遅かった。
「う、うぁぁぁぁ!」
倒れた2つの死体を前にして、臆病な兵士は大声を出した。
やられた。
そう思わざる終えない。一瞬でも変な感傷に浸ったのが間違いなく敗因だった。
一歩で距離を詰め、正確にソイツの首を薙ぎ払う。死体を見つけた驚きの表情のまま、首はどこかに飛んでいった。
ブオオオオ
サッと周りを見回せば、兵士の同僚らしき人間が遙か遠くで法螺貝を吹いていた。
姿は見られていない。しかし、声からして非常事態であることを悟ったのだろう。
「何だ!なんだ!」
「敵襲?敵襲か!」
「食料庫の前だ!」
どうやら法螺貝が吹いた秒数で、敵がどこに現れたかを伝えているらしい。
正確に兵士達は食料庫に集まろうとしている。
チッ
思わず舌打ちが漏れる。食料を盗むどころか、命を狙われることになるとは。
意を決して、城壁まで走った。もう食料を盗んでいる暇はない。
篝火を掲げた兵士達がワラワラと蟻のように這い出てくるが、何て事はない。
彼らは夜目が利かない。数の上では圧倒的に不利でも、撒く事に造作はなかった。
気付かれた。そう思えば、口を開く前に切り捨てる。それを繰り返し、最短距離で突破口を開く。
問題ない。気持ちも落ち着いていた。
何だかんだ言っても、こんな事は日常茶飯事なのだ。
城壁を飛び越え、俺は夜の空に躍り出た。
月が出ていた。一体いつ雨は止んだのか、煌々と月が俺と睨めっこをしている。
不味い。
そう思ったときにはもう遅かった。というか、今日はもう何もかもが遅かった。
パァン
鉄砲の音が鳴り響く。
高々と飛び上がって、隈無くくっきりと月明かりに照らされた俺。
それはまさしく格好の的だったに違いない。
「打ったか!?」
「当たった!?」
着地した瞬間に一気に意識が遠のきそうになる。腹部に一発食らったらしい
フラリと倒れそうになる体を支えて、何とか足を一歩踏み出した。
「っっっ!?」
声にならない声があがる。痛みが再び意識を遠くへ持っていこうとする。
遠のいていこうとする意識を必死に手繰り寄せて、さらに一歩踏み出した。
さらに一歩。さらに一歩。
一歩重ねる事に痛みはぼんやりとしたものになり、徐々に熱さに変わっていく。
しかし、意識は段々と確実に向こうの方へと引っ張られている。
こりゃ死ぬな。
どこか冷静にそう思いながら、俺はがむしゃら突っ走った。



どれほど走ったかわからない。俺は倒れ込むようにして、地面に突っ伏した。
動かない、ではなく動けなくさせる重みが体にのしかかっている。
死んでしまう。と改めて思った。
何とか這うようにしてうつ伏せから仰向けへと体制を変える。最後に空くらい眺めておきたかった。
生まれたばかりの太陽が東の空で、元気良く世界を照らしてくれている。
木々の葉っぱは薄緑に透け、玉を転がすような鳥の声が耳を優しく撫でた。
穏やかな朝だった。あんなに人を殺してもこんな穏やかな死を与えてくれるとは、神様の何と寛大な事か。
でも、穏やかな景色を眺めているとなぜだか急に悲しくなった。
自分が死んでも誰も悲しんでくれない。死の淵に立って、改めてそんなことに気付かされるのだ。
そういう点では、俺がいままで殺してきた人間の方がよほど悲しまれてるに違いない。
そんな彼らを殺した俺は一体何なのだろう。何の権利があって、俺は彼らを殺せたのだろう。
もちろん、それらのことについて今更謝る気にはならない。
ただ俺は、自分の死を悲しんでくれる人がいる彼らが少し羨ましかった。
独りはあまりにも悲しすぎる。

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ある陸上部員の性渇 二章『迷走』③

 夏の部活というものは辛い。
 容赦ない日差し、いつにも増した練習量、嫌になるくらいの暑さ。とにかく人が運動をしたくなくなる要素を、ことごとく含んでいるのだから、当然だ。
 だが、それだけ辛いからこそ、それを終えたあとに獲る達成感と爽快感には、格別なものがあった。
 そして今日も俺は帰宅後、キンキンに冷えたアクエリアスを一気飲みする。
「ぷはっー!」
 1Lのペットボトルが忽ち空になる。
 ああ、こんなに美味しい物があって良いのだろうか。しかもこんな美味い物が200円もせずに、どこでだって買えてしまうのだ。
 この時が、16歳の俺にとって最も幸せを感じる時だと言っても過言ではない。
 俺は鼻歌交じりにシャワーを浴びに向かった。



 「ふぅー!」
 冷水のシャワーを頭から浴びる。
 今日の疲れも一緒に流れていくような感覚。某オリンピック選手風に言うとするならば、『ちょうきもT』
 まさにそんな感じである。
「僕が僕であるために勝ち続けなきゃならない~♪」
 そして歌う。尾崎豊は素晴らしい。
 魂を磨り減らすがごとく歌う尾崎豊の歌声は、本当に心を震わせる。
 特に『僕が僕であるために』という楽曲。勝ち続ける彼だからこそ書けたあの詞。それはまさに、尾崎のための曲であり、今の俺の歌だった。
「正しいものは何なのか~♪それーがこの胸にわか……ごほっ」
 蹴破られたドアが腰にクリーンヒットする。俺は思わず風呂場のタイルに倒れ込んだ。
「く……かな…手加減というものをお前は知らないのか……」
 ピッチャー強襲センター前ヒットよろしく、すさまじい一撃を食らった腰をさすりながら言う。
「あ、ご、ごめん。お兄ちゃんがいるとは思わなかったの……」
 見れば生まれたまんまのかなの姿。
 申し訳程度に膨らんだ胸に、美しい窪みを生んだ形の良いお臍、その下に佇むまだ毛の一本も生えていないヴィーナスの丘。
 それを少しも隠そうとせず、彼女は突っ立っていた。
「悪いな、かな。俺が上がるまで待っていてくれ」
「えー、ついでだから一緒に入ろうよぅ」
 そう言って、後ろからかなは俺に抱きつく。
 かなの小さく柔らかい手のひらが、俺の股間に微かに触れる。
「……この前お風呂はもう入らないと、約束しただろ」
 兄離れ政策は、もう最終段階へと入っていた。
 徐々に減らした兄との交流、具体的には風呂とベッド。それはつい先日0に設定されたのだ。
「でも、でもぉ。こうしてたまたま一緒になったんだもん。それくらいいじゃん!」
「良くない。そういうところから何でも綻んでいくのだぞ」
 いつもなら、少し強く言ってやればかなは退く。
 しかし、今日のかなはどうやら少し違う様子である。
「や、今日は絶対お兄ちゃんと入るんだもん」
 決意を込めたくりくりとした可愛らしい目。まっすぐ見つられれば見つめられるほど、その愛らしさから俺の意志は崩れていきそうだった。
「駄目だ。約束は約束なんだ」
「たまたま一緒になったから入っていけない、なんての決めてないもん。決めてないもん!」
 屁理屈。こうなるとガキは止められない。
 しかし、今日だけでも……では、いつまで立っても前に進めないのは事実だ。
「……わかった。今日は仕方がないな」
 迷った末、俺は了承した。
「ありがとっ!」
 かなの顔がほころぶ。こういうのを見せられると、どうしようもない。
 ただ妹のかなが笑っていれば充分ではないかと、思えてしまう。
「お兄ちゃん、身体洗ったげる」
「はぁ!?お前一緒に入ってたときだって、洗いっこなんてしなかったじゃないか」
「いいの♪いいのぉ♪今日はサービスしますぜ、お兄さん」
 そう言って、かなは俺を風呂椅子へと座らせる。
 背後に立つかなの気配を感じる。
「じゃあ、背中から洗いますね」
 何だか客商売のような声を上げながら、かなは俺の背中へと手を伸ばす。
 妙に温くて柔らかな手のひらが、背中を這っていく。彼女はタオルを使う気がないのか、手のひらで石けんを泡立てただひたすらおれの背中を撫で上げた。
 良い動きだと思った。洗われるのは、気持ちがいい。が、逆に気持ちが良すぎた。
 マズイ。
 気持ちよさに、肉棒が屹立してしまった。精一杯の存在の証明である。先輩と初めてセックスした時もそうだが、俺はすこぶる背中が弱いのだ。
「次、前行きますね」
「ま…」
 俺が言うより先にかなの手は俺の股間へと伸びてきた。まるでこうなることを、あらかじめ考えていたかのように。
 肉棒をピンポイントに、かなはその温い手のひらで包み込む。霧のような甘美な快感が頭を覆っていくのがわかる。
「かな、それを誰から教わった」
「結城ちゃん」
 またお前か!どこの誰かか存じ上げないが、会ったら是非とも説教しなければなるまい。
「お兄ちゃんが喜ぶ、って。そしたらまたかなと一緒にお風呂に入ったり、寝てくれるって」
「馬鹿!」
 俺は振り払うように立ち上がる。そして、俺はかなを一瞥してから風呂から出ていこうとした。
「待って!待ってよ!お兄ちゃん!」
 振り返れば、かなは股をM字に広げ、その性器のすべてを晒し座っていた。
 ぱっくりと割れた秘裂からは、まだ幼い単純な構造をしたひだがひっそりと佇んでいる。そのひだをかなは指で押し広げる。
 ひだの奥には未成熟であったが、しっかりとした『穴』があった。ペニスを受け入れるようできた性器が。
 俺は思わず釘付けになった。
 美しかったのだ。未熟ゆえの具象を凌駕した抽象的な美しさ。成熟した性器には決してないその美しさがそこにはあった。
「ほら、よく見てお兄ちゃん……」
 ゆっくりとかなはその割れ目に指を這わせる。
 俺は思わず生唾を飲み込んだ。
「くふぅ……あん…」
 空いたもう一つの手を幼い乳首へと這わせる。摘んだり、ピンと弾いたりするたびに、彼女は艶めかしい声を上げた。
 その乳首もどんどん屹立していくのがわかる。白い肌の上にちょこんと載ったそれは、まさに食べ頃の果実のようであった。
 そして、かなは秘裂を触っていた手を上部へと移動させていく。
 快感の塊である小さな小さな芽、それを彼女はつまみ上げた。
「ああんっ!あんっ!はあ!」
 おそらく快感が段違いなのだろう。さっきとは比べモノにならないほど、色っぽい声をかなは上げた。
「お兄ちゃん、おにいちゃぁん!」
 かなの上気した目が俺を捕らえる。そのあまりに艶めかしい顔に、俺の股間は測らずとも大きくなりそうだった。

ポチャリ

 突然頭の上に水滴が落ちた。
 冷たくも温かくもない水。刺激としては無いに等しいが、かなの痴態に釘付けになっていた俺の目を覚ますには充分だった。
 俺はかなの前に立ち、かなの両手を捕まえる。そして、かなの両目をジッと見据えた。
 かなの瞳には戸惑い、後悔、恐怖色々な感情が浮かんでいるように見えた。
「かな」
 目を離さず優しく諭すように言った。怒るのではなく、教えなくてはならないから。
「それは人に見せるような物じゃない。人はそれを見て喜ぶかもしれない、現にそれで飯を食べている人がいる。でもかなはそうなるべきじゃない。お前みたいないい子には、必ず幸せで美しい未来が待っているから、な?」
「……うん」
 加奈は今までやった事をすべてまとめて恥じらっているほどに、顔を赤くして小さく頷いた。
 それでも両目は俺を捉えていた。
 恥ずかしいが言わなければならない。
 俺がこの一言を言わなかったからこそ、かなは誤解し、健気にもこういう行為に走ってしまったのだから。
「今まで不安にさせて悪かったな。俺はかなのことが大好きだ。妹として、この世の誰よりも愛してる。だから、安心してくれ。どんな事があっても、俺はお前を嫌いになりはしないから」
 精一杯、今までの謝罪を込めて愛を目で訴えた。
「かなもお兄ちゃんのこと大好き」
 そう言ってかなは唇を合わせた。柔らかくて、甘酸っぱいキスだった。
「えへへ、初めてはお兄ちゃんって決めてたの。だから今しかないって思ったの」
 はにかむように笑いながら、かなは言った。 まったく嬉しくなるような事を言ってくれるものだ。
「ご、誤解すんなよ。あくまで妹として好きなだけなんだからな!」
 これを照れ隠しと言うのだろう。そう言ってから、俺はかなから視線を外した。

 ○

 長い夢を見ていた。夢にしては珍しく恐いほど鮮明な物だった。
「もうすぐで着きますね」
 外は雨が止み、朝の優しい光が道を照らしていた。
 所々に水たまりができ、光を浴びて鏡のように周りの景色を反射している。
 目が霞む。いつのまにか涙が目に滲んでいた。
 俺は妹を殺した。彼女にあるはずだった美しい未来も希望も夢もすべてを潰してしまった。
 それも一時の直情的な感情で、そんなちっぽけな物で。
 どうしようもない。そんな大きな物を小さな理由で潰してしまったのだから。とても責任を取れるものじゃなかった。
「予報では今日も雨なんですけどね」
 結局妹じゃなく、俺が変わってしまっていたのだ。俺は妹が好きだった優しくまじめで誠実な兄ではなくなってしまった。
 だから妹は俺から離れた。そしてどこかでまた自分の好きだった兄に戻ることを願っていたに違いない。
「引き返してくれ」
「へ?」
「いいから引き返してくれ」
「もうすぐそこですよ」
 運転手は前方を指差す。
 堂々と連なる山々が見える。深い山だ、あそこに捨てに行けばおそらく到底見つからないだろう。
「自首する」
「……そうですか」
 運転手は小さく笑った。彼にも人の心はあるようだ。
「引き返すんですね?」
「ああ。できるところまでな」
「大変な道になるでしょうが、頑張ってくださいね」
 運転手はハンドルを切り、車をUターンさせた。
 そう、引き返すんだ、妹が好きだった頃の兄に。それが妹の願いであるのなら。
「やってやるさ」
 涙が頬を伝い口の中に落ちた。柔らかくて甘酸っぱい味がした。

| 小説(長編) | 21:40 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ある陸上部員の性渇 二章『迷走』②

 雨が降っていた。強く強く俺の罪を洗い流すかのように激しく

「くそっ!」
 俺は悪態をついた。思った以上にかなは重かったのだ。
 だが、悪態を付く理由はそれだけではない。
 午前2時半。
 家を出る前に気づくべき事だったのだが、もうとっくに終電の終わってしまった時刻である。
 つまり移動手段は車のみ。しかし、もちろん車の免許など持っているわけもない。
 そうなると手段はたった一つ。
 俺は車通りの皆無な道路に手を挙げた。



 今日はついているのかもしれない。
 あの時間、あのような場所でタクシーを捕まえるのは、なかなか容易な事じゃない。
「にしてもお客さんも物好きですねぇ。こんな時間から奥多摩へ登山ですもんね」
 酷く上機嫌に運転手が話しかけてくる。
 おそらく酒でも呑んでいるのだろう。ミラー越しに映る顔はほのかに赤らんでいた。
 年齢からすると、そう年のいっているようには思えないが、親父同様疲れた顔をしている。そのため、妙に老けて見えた。
「かくいう私もね、大学時代は登山部に入っていましてね」
 何と言うこともない世間話。
 もちろん、そんな世間話に耳を傾けてやるつもりはさらさらない。
 俺は退屈しのぎに窓に目をやった。視界は完全に雨によって遮られている。こうも強く雨が降ると、埋めに行くのも容易なことではないだろう。
「明日の天気はわかるか?」
「雨ですよ。こんな調子で一日振り続けるんだって」
 話を途中で中断させられたからか、運転手は少し不機嫌そうに答えた。
「それでこの前南アルプスに登りに行った時…」
 退屈な話がエンドレスで続くことを察し、俺は気怠げに目を瞑った。

 ほどなくして、運転手の会話が止んだ。
「どうかしたか?」
「どうかしたかも何も。お客さんが聞いてくれなきゃ何を話したって意味がないでしょう。」
 ミラー越しから皮肉混じりに運転手は、笑いかける。
 たしかに正論だ。どうせ聞いて貰えない話をすることほど、不毛なことなどない。
「それはそうとお客さん?」
「ん?」
 ミラー越しに運転手と目が合う。
 彼の目は笑っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。
「失礼ですが、もしかして……」
 運転手はそこで言葉を切る。そして、ちらりと大きめの旅行鞄へと視線を写す。
 どうやら、この雨の中深夜2時に旅行鞄で登山に行く客の異常さに、ようやくこの運転手も気が付いたらしい。
「山に何かを捨てにいくつもりじゃありませんか?」
 ここで言い逃れしても仕方がない。それに良い言い訳も思いつかなかった。
「まあそんなとこだ」
 さらりと何てことないように言ってやる。
「そうですか」
「通報するか?」
 俺の言葉を聞き、また視線を俺の顔へと写す。
 それから急に運転手は吹き出した。
「するわけないでしょう」
「何で?」
「何でって、お客さんもおかしなことを聞くもんですね」
 それもそうだ。
 俺は通報されないという事だけに、満足すればいい。理由がなんであろうと関係のないことだった。
「念のためだ、念のため」
「そう言うのに首を突っ込みたくないんですよ」
 たしかにその考えは間違っていない。
 しかし
「いいのか?犯罪者を野放しにしても」
 それを聞いてまた運転手は吹き出した。
「ますますおかしな人だ」
「いやあんたがおかしい。どうするんだ?俺がまた犯罪を犯したら」
 犯罪者が軽犯罪者に説教を垂れている。何とも奇妙な光景だった。
「どうするも何も。関係ないじゃないですか」
「関係ない?」
「あなたが人を殺そうがドラックをしようが、私には何の関係もないんですよ」
「俺はあんたの家族を殺すかもしれないぞ?」
「あなたがそんなメリットのなく、面倒なことをするとは思えませんが?」
 確かにそうだった。
 助手席にある運転手カードから得られる情報は名前と会社名しかない。そこから自宅の住所を割り出し、殺しに行くのは結構な労力がかかる。
 まず会社に電話しただけではこのご時世、住所は教えてくれないだろう。
 そうなると直接会社に出向かねばならない。だがそこでも直接出向いたからといって教えてもらえるとは限らない。
 そして教えてもらって殺したとしても何の見返りもない、ただ罪が増えて行くだけだ。
 本当に無駄、徒労以外の何ものでもない。
「わからないぞ?」
 それでもここで引き下がるわけにはいかなかった。
 言い出してしまった手前仕方がない。俺は運転手が参った、というまでこのつまらん議論を続けるだろう。
「では、もし私が今あなたを通報したらどうします?」
「それは……」
 俺は思わず口ごもる。殺すに決まってるからだ。
「口封じのために殺すでしょう」
 見透かしたような笑みを浮かべながら、運転手は言った。
「ああ」
 否定しようもない。通報されても殺さなければ、今自首しても同じ事である。俺は捕まらないために逃げているのだ。
「わざわざわたしが命の危険を冒してまで通報するのと、通報しないで家族が殺されるという極僅かな可能性に怯えるのでは、あなたならどちらを選びますか?」
「わかったよ、わかった」
 手を挙げてお手上げのポーズをする。
「やっとわかってくれましたか」
 やれやれ、と運転手は息を付き
「で、話は変わりますがね。雲取山の…」
 またつまらない話を始めた。
 再び退屈になった俺は気怠げに目を閉じた。
 寝ておこう。明日の穴埋めはなかなかの重労働である。

| 雑記 | 21:39 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ある陸上部員の性渇 二章『迷走』①

 俺は今をときめく職業ニート。
 理由は多々あるだろうが、簡単にいってしまえば社会が俺を爪弾きにしたのだ。
 俺は高校二年の時点で国体に出場し、初出場でありながら準優勝を獲た。いわば、将来有望の選手であったと言える。
 雑誌の取材も16歳のガキが調子に乗るには、充分なだけの量を受けた。
 しかし、いくら調子に乗ろうとも、天狗になるだけの実力が伴っていた。
 だから、恐いモノなど何もなかった。俺は走ってさえいれば、無条件に社会から認められることができたのだ。
 学校では誰もが俺を羨み、高校陸上界ではまさにスター、そして家庭では自慢の息子であり、兄。
 来年の国体の優勝は間違いなく俺であり、大学進学も有名私立から引っ張りだこ、となるはずだった。
 が、
 考えてみれば、おかしなものだと思う。俺は怪我をしただけなのだ。
 それなのに、社会は俺を必要としなくなった。
 そしてすっかり消えてしまった。雑誌の取材も、大学の推薦も、人からの羨望も、将来の希望も何もかも。
 代わりに与えられたのは、軽い哀れみと慰めのみ。
 そして、俺はその時初めて気がついたのだ。
 走ってさえいれば、無条件に社会から認められた俺は、走っていなければ何てことのないただの人であった、と。
 それでも俺の周りには仲間がいた、何て言えばそれはそれで良い美談になるモノなのだが。
 残念ながら、俺はそんな素晴らしい仲間を持ち合わせていなかった。
 理由などはわからない。しかし、原因があるとすれば彼らにあるのだろう。俺自身に理由がないのだから、当然である。
180度変わってしまった世界で、唯一支えになったのは家族……これまた美談!失笑!失笑!
 父や母は触らぬ神に祟りなし、との姿勢。飯以外、いや飯ですら俺と顔を合わせようとしない。
 妹はと言えば……あまりに悲しすぎて言葉もない。過去あれほど懐いていたと言うのに、父や母、いやそれ以上に俺を疎んじている。
 食事を共にするのは極力避け、顔も合わせようとしない。まるで、俺が自身がそこに存在しないかのような扱い。
 これが、3年前と同じ妹と思えようか!
 なかなか人生とは面白いものだと思う。たった一度の失敗でここまで、転げ落ちてしまうとは、社会とは、人間とは、何と冷淡なのだろう!



 それは蒸し暑い夏の夜だった。
 深夜の2時を過ぎた頃、俺はいつもの通り妹の部屋へと向かっていた。
 寝ている妹をオカズに自慰に耽るためである。

 トントン

 いつも通りのノック。すっかり寝入った妹はそれに反応することはない。
「……」
 何の反応もないのを確認して、俺は妹の部屋へと足を踏み入れる。
 学習机に男性アイドルのポスターに漫画ばかりの本棚。典型的な女子中学生の部屋である。
 ベッドの上で静かに寝息を立てる妹を確認してから、後ろ手に鍵を閉める。
「さて今日もいただくとしますか」
 思わず漏れる独り言。引き籠もってからというもの、自分でもびっくりするほど独り言が増えていた。
 妹のベッドの端に腰を下ろし、ゆっくりとその布団を剥いでいく。
 風呂に入ったばかりだからか、石けんの心地よい匂いが鼻を撫でていく。
「ちっ!またいやがる……邪魔だなぁ」
 布団を剥いだ先に黄色い優顔をした熊のぬいぐるみがあった。
 コイツはどうやら、妹のお気に入りらしい。
 毎回毎回、必ずと言って良いほど傍らに置いてあるか、抱き締めているかしている。
 まったく、中学生にもなってぬいぐるみ遊びが卒業できないとは、困ったモノである。
 ちょっとした苛立ちを込めて、俺はそのぬいぐるみを部屋の隅へとぶん投げた。
「ぐふ」
 そうは言っても、妹の青いパジャマ姿には笑みが零れる。俺は妹がいるだけマシだったと言える。
 いざとなれば、いつだってこうしてオカズが手に入る環境にあるのだ。
 しかもそれが、実の妹ながらなかなかの上玉。
 特にその小動物を思わせるくりくりとした目と、すらりと伸びた黒髪がたまらない。
「相変わらずいい髪だ」
 髪を漉くように撫でていく。枝毛のまったくないまっすぐ美しい髪は、しっとりと手に馴染む。
「んっ…う」
 くすぐったそうに妹は顔を綻ばせる。こういう表情の中にはまだ、あの懐いていた時期を思わせるところがある。
「目を覚まされても困るしな」
 早速俺は『作業』に入ることにした。無論、鑑賞するための作業である。
 妹のパジャマのボタンを手早く外していく。
「寝るときブラを付けないのは、相変わらずか」
 ボタンを外し終えると、幼さの残る淡い膨らみが露わになる。白い肌の上にちょこんと咲くピンク色の頂は、惚れ惚れとするほどの美しさがあった。
 それはまるで食べ物のように、俺の涎を誘ってくる。
 俺は思わずその胸に舌を這わす。この程度ならば起きない保証は充分あった。
「じゅる……へへぇ」
 一舐め、二舐めするごとにその頂は固さを増していく。寝ていて意識がないと言うのに、身体と言うヤツは反応してしまうらしい。
「んぅ…ん」
 軽い喘ぎ。これ以上やると起きてしまいそうなので、俺は乳首から舌を離した。
 今度はパジャマのズボンへと手を伸ばす。
 ゆっくりと下ろしていくと、リボンのついた純白のパンツが露わになった。部屋が暗いせいか、その白さはまるで輝いているようにも見える。
「あと一枚、あと一枚。くくっ」
 わけのわからない囃子文句を呟きながら、最後の砦に手を掛ける。
 パンツを下ろした先に、なだらかな丘の上に生えるうっすらと茂る芝生が目に飛び込んでくる。
 それは意図せずに感嘆の溜め息が出てしまいそうなほど、美しい秘部だった。
 芝生の下へ下へと視線を移せば、まだ成熟を迎えていない未発達な秘裂がほとんど隠されることなく顔を出している。まさに中学生、未熟なサンクチュアリである。
「いつ見ても綺麗なま○こだな」
 ただ生え揃っていないのが、少しばかり惜しい。
 それをまた未熟な美と取る人間もいるのかもしれないが、生憎俺はそれをベストとは捕らえない。
 しばらくその美しさを堪能してから、ふと考えた。
 どうするか。
 普段であればこの姿をオカズに自慰に耽るわけだが、さすがに毎回同じでは芸がない気もする。
「どうせバレはしないだろう」
 乳首をある程度舐めても、目が覚めなかったわけだ。
 冒険は可能ではないか。
「大丈夫、大丈夫」
 自分を安心させるかのように呟いてから、俺は妹の秘部へと顔を近づけた。
 少女独特の甘い匂いがする。もう、我が妹も女になりつつあるらしい。
 ほとんど毛の生えていない辺りを、そっと触れてみる。そして、恐る恐るその秘裂に指も入れてみる。
 何とも言えない感触を指先が伝えてくる。 これこそ、ここ数年触れることもなかった大陰唇の感触。
 俺はじっくり味わうように、ゆっくりと指を動かした。
「んふぅ……あぅん」
 どこか寝息にも聞こえる軽い微かな喘ぎ。
 俺はもっと踏み込めることを確信した。
 顔をさらに寄せて、秘裂に舌を這わせる。 口元に当たる微かな毛の感触がこそばゆかった。
「んんっ!」
 舌を秘裂に滑り込ませ、あふれ出る甘露を味わう。
 そして、舌を抜き差しさせてやる。
「あんっ!……あん!」
 久しぶりの甘露の味に頭まで麻痺しそうだった。
 いや、間違いなく麻痺していた。
 俺は無謀にも秘裂の上部の芽に舌を出した。 陰核、クリトリス……女性が性交渉を楽しむためだけに特化した組織。
 油断。俺は完全に油断していたと言える。 頭の片隅にもそんな事を考えている余裕がなかった。
「お、お兄ちゃん……?」
それはたしかに寝ているはずの妹の声だった。
 俺はおそるおそる声の方向を見る。
 そこには恥ずかしげに胸を隠し、今にも泣きそうな妹の顔があった。
 ああ、そうか。
 ようやく状況が飲み込めた。今、俺は妹に夜の痴態をみつかってしまって、その妹の顔は今にも泣き出しそうで……

 飲み込めてしまえば、何と言うこともない

 やることは決まっている。
 かなが叫び出すことなく、呆然としてしまっているのは好都合だった。
 枕元の電気スタンドのコードを引き抜く。 恐怖に染まる妹の顔。直感で何をされるかがわかったのだろう。
しかし

 もう遅い。

 妹が叫び出すより早く、電気コードを首へと回す。じたばた暴れる手足、しかし、それは階下にいる両親に聞こえるほどのものではない。
 渾身の力を込めて、じりじりと締め上げる強さを増していく。

 そして、妹は動かなくなった。
 舌はだらりと力無くはみ出して、見開かれた目からはすでに生気が消えている。
 死んだのだ。妹は殺された、他でもない俺によって、口封じのために。
「命ってヤツも軽いなぁ」
 こんなにも簡単になくなってしまうモノだとは思わなかった。
 たった電気コードと3分間。実にあっけない。
 しかし、どうしようか。
 殺したことは仕方がない。両親にバレないためには、コレしか方法がなかったのだから仕方がないと諦めるとしよう。
 問題はこの死体の処理である。
 王道に山に捨てに行くか、それとも海に捨てていくか。どのみち、この部屋にいつまでも置いていくわけにはいかないのは確かだ。
「うーむ」
 顎に手を当て頭を捻る。そうして、死体を眺めると、当たり前のことだがソレが裸であることがわかった。
 透き通るほどに白い肌は死んだせいか、さらに儚くなり、その美しさを増したように思われる。
 思わず股間がムクムクと隆起する。
 そして、さらに当たり前の事実に気が付いた。
 妹は死んでいるのである。
 声も上げることもなければ、抵抗をすることもない。つまり何でもやり放題。
 やれるのだ。久しぶりに。女の身体を抱けるのだ。何をするにも、すべて俺の思い通りなのだ。
「くくっ」
 今まで何と遠回りな事をしていたのだろう。
 自慰などに耽ることなく、こうして殺してしまえば、簡単にセックスすることができたのだ。
「まあ、やってからでも遅くはないな」
 俺はズボンを脱ぎ捨て、肉棒を露出させた。
 久しぶりに鞘に収まることのできる俺の刀は、これまでにないくらい勃起している。
「もう入れたっていいよな」
 股を開いてやると濡れていた。
 愛液とかではなく……排泄物で。
 おそらく首を絞めた時に、うっかり出てしまったのだろう。
「ったく……めんどくさいな」
 手近にあるタオルをかなの股間に宛う。じっくり何度も何度も秘裂を上下させる。
 むわり、とむせ返るようなアンモニア臭が鼻を突くが、不快ではない。何か上質な花の匂いに似ている気さえする。
 しっかりふき取った後、その下の尻にもタオルを這わせる。もう一つの排泄物があるのだ。
 もちろん、そんな俺の動作に妹は何の反応も示さない。
 少し汚さは残るが、これで何とかできるだろう。
「世話がかかるな、もう」
 M字に開脚した股間からは、眩いばかりのサーモンピンクが覗いている。
 ここまで綺麗なのだ、妹はきっと処女なのだろう。そして、それを今、実の兄である俺が奪うのだ。
 何とも言えない背徳感が俺の興奮に拍車をかける。
 そんな感情に背中を押されるようにして、ためらうことなく、俺は剥き出しになった膣口に肉棒を埋めていった。
「くふぅ……」
 あまりに強いその締め付けは、入れただけで射精しそうなほどだった。
そして、意外にも温かかった。ぬくりと俺のすべてをかなの秘部は受け入れていく。
「はぁふぅ」
 ゆっくりと慣らすように腰を進める。
 潤滑油である愛液が足りないせいか、膣の中はざらざらとしている。
 そのためにあまりスムーズに動くこともできない。
 でも、それはむしろ好都合だった。締め付けの強い妹の膣は、少し動いただけでイキそうになってしまうのだ。不自由なくらいがちょぅどいいと言える。
「くふぅ…はぁ」
 俺の喘ぎ声だけが部屋に響く。
 死んだかなは決して喘ぐこともない。ただその身体だけを俺に差し出しているのだ。
 そんなぐったりとした彼女の顔に一瞥を加えると、何だかとても気分が良くなった。
 何でもできる。アナルで犯すことも、膣が壊れてしまうほど犯すことも、何だってできる。
 このことに気分を悪くする人はいるだろうか。
 いないに違いない。何だって自由にできることを、みんな誰だって望んでいるのだ。
「はぁはぁ」
 不意に目に止まった乳首に舌を這わせる。 しかし勃起のしてない乳首はとても味気ないモノだった。
 舌でその感触を楽しむが、張り合いがない。
苛立った俺は思い切り歯を立てた。

がりっ

 口の中に鉄の味が広がる。
 どうやら乳首を噛み切ってしまったらしい。 でも、妹はそんなことをした俺に、文句の一つも言わない。
 それはますます俺の気分を良くした。
 自由なんだ、と。何をしても大丈夫なんだと、俺を安心させた。
「はぁ、はぁうぁふぁ……」
 腰を激しく突き動かしていく。肉棒がざらざらとした膣の内壁で擦れていく。
 無抵抗なかなの顔が、その動きに合わせて上下に揺れる。
 甘い快感が脳を犯していく。股間に神経が集中していくのがわかる。
 快感の波が寄せては返す。そして、その波は寄せて返すたびに強くなっていく。
「イク!イクぞ、かな!」
「……」
 もちろん返事はなく、俺は一人でかなの中で果てた。
「ふぅはぁ…」
 肉棒を妹の股間から抜き去ると、かなの股間から血が滴った。
 どうやら予想通り、妹は処女であったらしい。
「気持ちよかったぞ、かな。次は何をしようか」
 物言わぬ妹に語りかける。
 血に濡れた彼女の秘部をふき取ってやり、しばらく俺は思案した。
 時間はまだ2時。たしかに、まだまだ夜明けまでには時間はあるが、そうもゆっくりはしていられない。
「警察に捕まってはもともこうもないよな」
 名残惜しくも、俺は妹を捨てに行くことにした。
 急いで自分の部屋に戻り、かなり大きめの旅行鞄を持ってくる。
「ちっ……」
 そのままでは入らないので、ベッドの上で身体を丸めさせた。
 膝を胸にくっつけるようにして、そこで紐で身体全体を縛ってやる。
 するとようやく幾分妹はコンパクトになり、何とか鞄に入るくらいになった。
 最後に優しく股間を愛撫してやってからチャックを閉め、妹の死体ととりあえずの別れを告げる。
 山で時間があれば、もう一度でも二度でも妹とやればいい。

| 小説(長編) | 21:37 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ある陸上部員の性渇 一章『快走』④

 遅い時間に帰ってきたため、リビングにあるのは空っぽの器と一枚のメモが置いてあった。
『温めて食べてください』
 よく見れば、そこには器が二つある。どうやら親父もまだ帰ってきてないらしい。
 キッチンに向い、鍋に火を入れカレーを温める。食欲をそそる匂いが鼻を撫で、俺は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
 それにしても。
 親父はいつもこうして一人で飯を温めて食べているのだろうか。
 そんなに働いて、彼は何を得られるというのだろう。俺の得るような勝利の喜びなど、退屈なデスクワークにあるとは到底思えない。
 家族を養うこととは、そんなにも幸せなことなのだろうか。身を粉にしてまで、得る価値があるのだろうか。
「お、今日はけいすけも遅いな」
 背後の声に俺は瞬時に振り向いた。
「どうした?そんなに驚いて」
 親父が疲れた笑みを浮かべながら立っていた。
 どうやら考えすぎたのか、疲れているのかして、親父が帰ってきたことに気が付かなかったらしい。
「別に。なあ、カレーはどのくらい食うんだ?」
 何だか素直に答えるのが照れくさく、ついぶっきらぼうに言ってしまう。
「そうだなぁ。けいすけの半分くらいでいいぞ」
「ん」
 リビングに二人分のカレーを持っていき、向かい合って飯を食う。
 久しぶりに、こうして同じ食卓で食べるというのに、会話は弾まない。弾まないどころか、思い沈黙が漂っている。
 話すことがないわけではないが、口を開こうとすると言葉が乾いていってしまう。
 そんなことを繰り返している内に、親父は不意に何かを思い出したように言った。
「そういえば、国体決まったらしいな。おめでとう、けいすけ」
「ありがと」
 もっと会話を弾ませることは出来ないものか、と自分自身に問いつめたくなる。
 下手に近しい人間とは逆にコミュニケーションが取りづらい。
「お父さんもそんくらいの頃が一番楽しかったなぁ」
「ふーん」
 どこの三流ドラマだと思いつつ、少し興味を持ったふうに聞いてやる。
「こう見えて学生時代は、すんげーバリバリのサッカー選手だったんだぞ。芝生の上の野人と言われてな、ピッチの上じゃ俺に抜けない物はなかった」
 そう言って遠い目をする。
 ああ、親父にもそういう時期があったのかと、俺は当たり前の事に関心した。
 輝かしい時代の事など伺えないほどに、彼は疲れて見えてしまうから。
「女の子ともいっぱい付き合ったし、みんなみんな世界が輝いて見えてたなぁ。でも、悲しきかな、そういうのは早々長くは続かないもんで」
「もんで?」
「怪我をしてパーだよ。スポーツって言うのはそういうとこが恐いよな。身体を壊したらそれで終わりなんだから」
「……つまり何が言いたい?」
 ほんの少しムッとする。
 こっちが国体に出られる喜んでいる時に、怪我したら、なんて話をされてしまうのだ。気分が良いわけがない。
「大事なのは上手くいかなくなった時だってことだよ。まあ、今何言ったってわからないだろうがね」
「……わかるかよ。ったく気分悪いな」
「まあ、そう言うな。年長者の助言には耳を傾けておくもんだぞ」
 損をしたと思った。わざわざ聞いてやって損をした。
 小賢しい説教を好んで聞く馬鹿は、どこにもいない。
 俺は苛立たしげにカレーをかき込む。口で文句を言わない変わりに、カレーに当たってやった。
「一番悪いことは上手く行かなくなったとき、他人や社会のせいにすることだな。大抵は原因は周りが変わってしまったというより、自分自身が変わったことにあるんだからな」
 食い終わったら、目もくれずリビングを飛び出す。つまらない説教など忘れ、さっさと寝てしまいたかった。
 薄暗い廊下の床がやけに冷たい。



 疲れた身体を布団に滑り込ませると、すでにそこには先客がいた。
 ふわりとしたシャンプーの香りに、少女特有の甘い匂いがする。
 無論、かなである。
「ううん…」
 布団に入って動いたためか、かなは眠たそうに声を上げる。
 どうやら起こしてしまったらしい。
「今日はこっちで寝る日か?」
「んーでもぉ、お兄ちゃん全然一緒にいてくれなかったよ?」
「それでもカウントするからな」
 かなはううん、と不服そうに唸る。
「嫌ぁ。だってだって、これじゃあお兄ちゃんと一緒に寝た気がしないもん」
「だったらどうすればいい?」
「キスしてキス」
 暗闇でもわかるほどの満面の笑み。
 そして、俺の胸板へと頬ずりをしてくる。 そんなことしたって、キスなどできるわけがないのに。
「……あのなぁ、俺らは兄妹なんだぞ?キスする兄妹なんているか?お前の周りに」
「いないけど……いないなら、なれば良いんだよ!」
「寝る。おやすみ」
「駄目だよ、寝る前にキスしてよぉ、お兄ちゃん」
 背中を向けて無視を決め込む。
 それでも、かなはしつこく言い寄ってくる。 この年になっても、こんなに仲の良い兄妹は珍しいのかもしれない。
 たしかに、こんなに妹に好かれることは嬉しくないわけではない。でも、やっぱりこれからの事を考えれば、もう少し距離を開かなくては、と思うのだ。
 それにキスなんて……。やはりそれは踏み込みすぎである。
「もぉ、話も聞いてくれないなんて酷いよ!こうなったら……えいっ!」
 右手が持っていかれる。あまりに不意を付かれたので、抵抗もできない。
 そして、その手は……何とも言えない柔らかな物体を掴んでいた。
 しばらくして、パジャマから伝わる感触から、それが何であるかがつかめてきた。
 まだ、若干固さの残るそれは間違いなく……
「お兄ちゃん、喜んでくれた?かなの……かなのおっぱいだよ」
「……誰からこういう変な事教わったんだ?」
「え?結城ちゃんからだよ。きっとお兄ちゃん喜ぶだろうって」
「俺はどこの変態シスコン兄貴だよ!ったく……」
 不機嫌に手を引き抜く。妹の弱い力では、俺の腕一本も押さえられはしないのだ。
「そんなことばかりやると……もう寝てやらないぞ?」
「ごめんなさい」
 しゅん、と発した言葉に俺の胸までシュンとなる。甘い兄だなぁ、とつくづく感じながらも、俺はあえて慰めの言葉を掛けてやることはしなかった。
 いくら可哀想だと思っても、突き放さなければならない。そうでなければ、いつまでたっても『兄離れ』はできやしないのだ。
 しばらくして、すすり泣く声が聞こえ始めた気がした。が、すぐに俺の意識は甘い眠気に流されていった。



 誰もいない通学路を俺は颯爽と歩いていく。
 遅刻している。間違いなく、昨日の就寝時間がいつもよりかなり遅かったせいである。
「ふをぁぁ」
 思わずあくびが出るも、だからといって時間が遡るわけじゃない。むしろ、睡眠不足による気怠さが増すだけだ。
 ようやく学校に着き時計を見れば、始業からすでに30分たっていた。
 諦めと同時に、どっと眠気が押し寄せるのがわかる。
 いいや。一時間目くらいサボろう。
 だから、そう思ってしまうのは至極当然なのだ。別に俺が自堕落になったわけでも何でもない。



 屋上から見る景色はお世辞にも美しいとは言えない。
 そこから見えるのは、神々しい山でもなくエメラルドブルーに輝く海でもない。混沌を絵にしたかのように薄汚いコンクリートジャングルのみだ。
 それでも屋上に来てしまうのは、時間を潰す場所がここにしかないのと、そして空が近いからである。
 ごろんと寝転がれば、初夏の日差しが容赦なく俺の目を射抜いてくる。それを遮るように手のひらを翳すと、ようやっと空の青を拝むことができた。
 空は手を伸ばせば届きそうでもあり、どこまでも果てしなく遠い。
「ふをぁぁ」
 あくびがもう一つ出る。
 昨日危うくサボりそうになった時は、たしかに罪悪感など沸いた。しかし、今は不思議なほどそんな感情は沸いてこなかった。
 サボりというのは、1回済ませてしまえば悪い意味で気が楽になる。などとサボり症の友人が言っていたが、どうやら本当らしい。
 いや、何でも同じなのかもしれない。気が楽になりそれをどうとも思わなくなり、それはどんどんエスカレートし……
 俺は考えるのをやめた。眠気にはどうやったって逆らえはしない。
 日陰に戻り、俺は横になった。



「いい天気だねー」
「そうですね。まさに洗濯日和ですね」
「ごめんね、かおるちゃん。こんな事手伝わせちゃって」
「いいんですよ。先輩にはいつもお世話になってるんですから」
「ううっ……なんてよい子なの、かおるちゃん」
 そんなかおると先輩の会話で、俺は目が覚めた。
 二人がこうして洗濯物を屋上に干しに来るとは、寝入ってしまって、昼休みにでもなってしまったのだろう。
 しかし、二人はまだ屋上の隅の日陰で寝てる俺には気づいていないようである。
 まだ眠気にしがみついていたい俺にとっては、むしろ好都合だった。
「な、何するんですか!先輩っ!」
「何って、スカート捲りだよ」
「そんな当然のことのように言わないでください!」
 俺は思わず耳をそばだてた。
 心なしか、百合の花の香りを感じるのは、男として至極当然の思考であると思う。
「目の前に可愛い子のスカートがあって捲られないのは失礼でしょ」
「そんな事言ったら……って、先輩駄目ですってばぁ、揉まないでください!」
「ああ、この適度な固さと柔らかさ……気持ちいいなぁ」
「ひゃん……先輩、そこはホントに駄目ですってばぁ」
 何をやっているのだろう……
 俺は盗みみたい欲に駆られる。しかし、この見えない位置から顔を出せば、間違いなく二人に気づかれてしまう。
 よく聞こえるようにと、じりじりと俺は位置を移動させていく。
「本当に形も感触も良いお尻だよねぇ」
「せ…んぱい……外ではそういうことやらないって、言ったじゃないですか。シャワー室とか更衣室だけだって」
「誰もいないから大丈夫だよ。ちゃんと鍵も閉めてあるし」
 ところがどっこいいるんだなぁ、俺が。
「んっあっ……!もうそこお尻じゃないですって!」
「んふふぅ、相変わらずほとんど何も生えてないんだねぇ」
「やめくだ……あんっ!駄目ですって、やめっ!どうして」
 俺は欲望に負け、顔を出した。
 こっちを向いていた先輩の顔が妖艶に微笑み、対照的にかおるは絶望的な顔になる。
「何だぁ、けいすけ君そんなとこにいたんだ」
「すんません、ずっと聞いてました」
「ふふっ♪もうっエッチだなぁ、けいすけ君も」
「先輩っ!離してくださいっ!」
 俺に見られているという恥辱に耐えられなくなったのか、かおるは先輩の腕を振り払おうとする。
 先輩は意外にも、あっけなくかおるの身体を放した。
「って、あれ?」
 かおるも拍子抜けしたようで、呆然と突っ立っている。
「かおるちゃんがそんなに嫌がるならいいよ。私はけいすけ君と楽しむから」
「そ、それは駄目です!」
「どうして?」
「それは……その……」
 と、助け船をこうような視線を俺に向けてくる。
 昨日の事があるんだからはっきり言えよ、と彼女は言いたいのだろう。
 しかし、生憎俺は先輩との関係も持ってしまっている。
 いわば修羅場である。逃げようもない袋小路。
「どうせけいすけ君、昨日かおるちゃんとえっちぃ事したんでしょ?」
 不意に先輩は俺の耳元で囁く。
「な、何で先輩知ってるんですか!」
 驚く他はない。あのシャワールームには、たしかに俺とかおる以外いなかったわけだから。
「だってシャワー故障してて、同じシャワーを多感な高校生が使うんだもの。そういうことが起きない事が不思議でしょ?」
「先輩は何でもお見通しですか……」
「ふふぅ、でもどんなことしたかまではわからないけどね」
 そう妖艶に微笑みながら、先輩は官能的な手つきで、俺の顔を撫で上げてくる。
 やるか、やらないか。
 選択は2つ。いや1つか。もう俺の頭は一昨日見た先輩の裸体でいっぱいなのだ。いくら、かおるがいようとも選択肢は一つに絞られてしまう。
 それだけじゃない、先輩の膣の締め付け具合、肌の柔らかさ……想像しただけで下半身が膨らんでいくのがよくわかる。
「ちょっと待ってください!先輩」
 かおるの声に、思わず先輩は制服のボタンに掛けた手を止める。
「駄目です。けいすけは……けいすけは私のです!せ、先輩には渡しませんからっ!」
 かおるは走って先輩の手を俺から外す。
 かおるにしては思い切った行動だが、それで先輩が引き下がるとは思えない。
「かおるちゃんは、けいすけ君の彼女かなにかなの?」
「え?……いえ違います」
「だったら、かおるちゃんの所有物でも何でもないんじゃないかな?」
 ニヤニヤァとSっ気満々の笑顔。
 そんな笑顔にかおるは、悔しそうに唇を噛んでいる。
 しかし、その直後起死回生の一手が閃いたかのごとく、かおるは満面の笑みを浮かべた。
「でも、先輩。私にはアドバンテージがありますよ?」
「何?」
 崩れぬ自信に溢れた笑み。
 ああ、俺はもうわかっている。
 かおるは昨日の事を言おうと思っているのだ。
 彼女ではないけど、性行為はしましたよ、と。
 かおるは知らないのだ、それ以前に俺と先輩が関係を持っていることを。
 案の定、かおるは俺の方を振り返り、勝利に満ちた表情で頷いた。その顔はこれ以上ないくらいに真っ赤である。
 自分から性行為を公表するなど、恥辱の極みだろう。それも尚更、かおるのような女の子にとっては。
「私は彼女じゃないですけど、けいすけとそういう行為をしましたよ」
「そういう行為って?」
「そ、そういう行為はそういう行為です」
 目をギュッと瞑り、かおるは恥ずかしさに耐えている。
 何というのか、そういう表情は非常に興奮するものがある。
「キス?ハグ?」
 心底楽しそうな笑顔で先輩は、かおるの顔を覗き込んでいる。
 先輩のような人間にとっては、かおるのような子は溜まらないのだろう。
 俺だって彼女をからかうことに、一種の楽しさを感じるのだから、Sな先輩なら尚更だ。
「違います。もっと激しいのです!せ、せせせセックスです!」
「セックス、ふーんセックスねぇ。ふふっ、ねえけいすけ君、どうしよっか?」
「先輩も人が悪いですね……あんまり隠し事も良くないですし、言ってしまいましょうよ」
「潔いね、そういうところは。ふふっ」
 不思議そうな顔でかおるは、俺と先輩を交互に眺めている。
「かおるちゃん。実は私もけいすけ君とセックスしてるの」
 目が点。そして、再び俺と先輩を眺め、それを三回ほど繰り返した後、不意に俺の目で止まる。
 瞳は怒りで震えている。悲しさとかではなく、ただ純粋な怒り。
 俺はおかしな話だが、ホッと息をついてしまった。なぜって、ここで泣かれるよりは、怒られた方が断然マシだから。
 怒りから人間関係を修復するのは、難しいどころかむしろ簡単だが、悲しみから人間関係を修復するのは不可能に近い。
「お、お前と言うヤツはっ!破廉恥!変態!色魔!変態!猿!獣!」
 選り取り緑の罵詈雑言。そんな罵声を飛ばされる俺を、先輩はただただ楽しそうな笑みを浮かべて見ていた。
「仕方ないんだ。な?」
「初めてだったんだぞ!私は!なのになのに……お前は二股などかけて……」
「悪かった。悪かった。ホントにすまない」
「謝って済む問題ではないっ!」
 俺はひたすら額を地面に付き許しを請う。
 というのか、それ以外に方法が見つかられないのだ。
「かおるちゃん?そんなに怒ったって仕方ないんじゃない?」
「そうは言ってもですね、先輩。私は私は」
 いいからいいから、とかおるを宥め、先輩はかおるの耳元で何かを囁く。
 かおるの顔に見る見る笑顔が戻り、先輩と一緒にニヤニヤとこちらを眺めている。
 何かよからぬ予感がする。とんでもなく。
「けいすけは悪いことをしたと思っているんだな?」
「そ、そりゃあもちろんでありますとも」
「つまり罪を償う気があるのだな?」
「当然であります」
「罪を償うことは、罰を受けること。違うか?」
 ギロリ、とかおるは俺を睨み付ける。
 有無を言わせぬ様子に、俺はただただ頷くしかなかった
「そうでありますとも!」
「先輩、そういうわけです。この者に罰を」
「は~い。じゃあ、今すぐけいすけ君服全部脱いじゃって」
 いつも以上に天使のように美しい先輩の笑みが恐ろしい。
 そして、いつも以上に何を考えているのかが読めない。
「……こ、ここでですか?」
「うんうん。当たり前でしょ?何だったら校庭でも良いけど?」
「いえいえ、ここで脱がせていただきます」
 俺はそそくさと、制服に手を掛けた。
 たしかに恥ずかしさはあるが、ここで躊躇していても埒が空かない。



 校庭の喧噪が聞こえる。
 屋上から校庭を見下ろせば、サッカーを楽しむ者、バスケットに熱を出す者、未曾有の人々が不規則に休むことなく動き回っている。
 どこからか聞こえる、吹奏楽部の奏でる音色も心地よい。
 今は昼休みである。生徒のほとんどが、自由を謳歌する夢の時間。
 そんな夢の時間に俺は全裸で屋上に立たされている。
「隠しちゃ駄目だよ。ほらほらぁ、しっかり先輩に見せて」
 股間に直に当たる風の感触。
 普段はこんな明るみで見ることもない自分自身の裸体。
 すべてが非日常的すぎて、俺はもうどうしようもなく勃起していた。
「くっ、まったくこんな所で裸になって勃起するとは……お前もどうしようもない変態だな」
 そういうかおるは、口こそ窘めてはいるものの、うっすらと笑みを浮かべている。
「本当に変態さんだね、けいすけ君は」
 もはや反論する術はない。俺がどう言おうとも、身体が正直に反応してしまっているのだ。
「で、先輩これからどうするんです」
「けいすけ君はジッとしてればいいの」
 そう言って、先輩は俺に近づいてくる。
 そして、屋上のアスファルトに跪く。
「あの?先輩?」
 俺の股間の目の前に先輩の顔。
「かおるちゃんが、けいすけ君のおちんちんが恋しいって言うから」
「い、言ってません!」
「ふふぅ、素直じゃ無いなぁ、かおるちゃんも。私が提案したらすごく喜んでたくせに」
「それは……その」
 かおるはもじもじと顔を俯かせる。
 どうやら返す言葉がないらしい。
「ほらほら、早く来ないと私が独り占めしちゃうよ?」
「ああ、駄目ですっ!」
 美少女二人が俺の股間の前に大集合。
 もしかして、いやもしかしてでもなく、これは罰でもなければほとんどご褒美ではないだろうか。
「あふぅ」
 先輩の舌がペニスの裏筋を舐め上げていく。 たったそれだけの事で、俺は声を出さずにはいられなくなる。
「ふうぁ」
 今度はかおるが、先端に軽く触れるようなキスをする。恐る恐るという感じなのは、彼女が不慣れなせいだろう。
 そして、ゆっくりと先端の鈴割れにそうように舌を這わせる。
「案外、上手なんだね、かおるちゃん」
「え?まあ、はい」
 褒められたことが照れくさいのか、かおるはそっと目を伏せる。
 隆々とそそり立つ股間を前にして上気する彼女の顔は、いつにもまして艶っぽい。
「私にも舐めさせて」
 先端を左右に分けて、先輩とかおるが舌を這わせていく。
 そのたびに雷のように激しい快感が押し寄せてくるのがわかる。
「くぅ……ふぅっ!」
 突然、先輩がかおるの領地にふみいり、尿道口へと舌を滑り込ませる。くすぐったいような快感が、行き場を失ったみたいに身体を駆けめぐっていくのがわかる。
 かおるはと言うと、示し合わせたかのだろうか。先輩と上手く役割分担をするかのように、今度はペニスを横にくわえ出す。
 それはそれで快感を助長し、何度も倒れそうな恍惚感を俺は味わった。
「はぅ!」
 ずほりすぼりと、先輩の口がペニスを飲み込んでいく。温かい先輩の口内にくわえられると、これ以上ないくらいの射精感が込み上げてくる。
「もうっ!出てしまいます!先輩」
 そんな声にかかわらず、先輩は口を上下に動かしていく。
 時々先端を刺激する舌先が、頭がくらくらするほどの快感を与えてくる。
 これは口の中に出していうことだろうか。
「出しますよ!」
 一応断っておいて、俺は思う存分先輩の中で果てた。



「先輩だけずるいです。私もけいすけの飲みたかった」
「別に減る物じゃないんだから、ね?もっかいやれば」
「いや、減りますって」
 だが、彼女たちは俺の言葉にはお構いなしのようだ。
 また同じように俺の股間の前に座り、出し切って萎んでいるそれを手のひらで包み込む。
「まだまだ終わらないぞ?」
「恐い恐い。二股の罪は恐いねぇ」
 俺は遮るモノのない空を見上げ、微笑んだ。
 もし空に天国があり、そこに神様がいるのなら一晩で読み切れないほどの量の感謝の手紙を書いてあげたい。
 上手く行き過ぎている。二股を掛けたのに、嫌われもせずこうして快感を味わってすらいる。ありえない。どこのエロゲだ。
 こうまで上手く行っていて良いのだろうか。
 スポーツは絶好調、性交はやり放題、空は快晴。
 ああ、こんなに幸せで良いのだろうか。
 良いのだ。
 誰に言うでもなく、俺は呟いた。
 幸せな時に幸せを考えることほど、馬鹿らしいことはない。

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≫ EDIT

ある陸上部員の性渇 一章『快走』③

 朝だと言うのに日差しが強い。
 ここのところますます日は強くなっている。朝ですらもはや清々しいとは言えず、少し熱く感じてしまう。
 ふと、太陽に手を翳す。もう手のひらから血管が見えるほどだった。
「おはよう、けいすけ君。手のひらを太陽に~♪かな?」
 声の方向へと目を向ければ、先輩がニコリと微笑んでいた。
 相変わらずお美しい。いや、語弊があった。先輩には『相変わらず』という言葉すら似つかわしくない。いつにもまして美しかった。
「おはようございます、はるか先輩。先輩もやってみたらどうです?生きているのを実感できますよ」
「むしろ強い日差しを実感しちゃうんじゃないの?」
 くすりと微笑。
 健全な男子学生に美人な先輩。何とも絵になる登校風景である。
 そして、視線の先には抜けるような青空。そんな雲一つ無い空を見ていると、大げさではなく心が洗われるようだった。
「夏は好きですか?先輩は?」
「……すごく青春っぽいね、その台詞」
 少し小馬鹿にしたように先輩は言う。たしかに自分でも青臭いと思ってしまう。
 それでも言ってしまった手前、ほんの少しムッとした声音で僕は言った。
「青春ですから青春ぽいのは当たり前ですよ。で、先輩どうなんですか?」
 ちょっとムッとした声にきょとんとしながらも、先輩は考える。
 んー、と顎に当てられた指は長くしなやかだ。こんな指先で昨日あんな不埒な行いをされたのだと思うと、自然と股間が疼いてきてしまう。
「そうだね。夏は好きだけど、今年の夏は少し嫌いかな」
「えと、どうしてですか?」
「どうしてって。けいすけ君は私が何年か知ってる?」
「三年ですよね。いくら僕がスポ薦の馬鹿だからって、そのくらいわかりますよ……あ」
 そこで、ようやく気が付いた。
 先輩は三年である。つまりもうあと少しで引退してしまうのだ。
 しかも先輩は上位の国公立を狙っているとの話を聞いたこともある。そうなれば色んな物を捨てていく覚悟でなければ、とても合格を勝ち取ることはできないだろう。
「引退、ですか。あー、全然頭に無かったです」
 練習を終えて、先輩の用意したタオルで身体を拭いて、先輩の作ったスポーツドリンクで喉を潤して、火照った体と夕陽に赤く照らされる先輩の顔が眩しくて。
 俺はてっきりそんな日々はずっと続いていく物だと思っていた。それはあんまりにも取り留めもなくて、そこにあるのが当たり前で……
「どうしたの?」
 俺はよほど悲しそうな顔でもしていたのだろう。ふと、見れば先輩が俺の顔を覗き込んでいた。
「もしかしてけいすけ君、寂しいの?」
 ニヤニヤァとした例の笑みを先輩は浮かべる。これをネタにまた俺を弄って楽しむ気なのだろう。
 こういう時どうすれば良いのか。答えは極めて簡単。
「そうですよ。先輩がいない生活なんて考えられませんから」
 開き直るのが一番速い。Sな人間はその弄る行為自体を楽しむ。
 つまり、それを通して得る情報に彼らは何の興味もない。
 でもそうは言っても、先輩から目線を外してしまう当たりは、やはり僕はまだまだウブなんだろう。
「ふふっ。もう可愛いなぁ、けいすけ君はぁ」
 先輩はつんつん、と俺の頬を軽くつつく。 一体この行動に何の意味があるのかは、まったくもってわからないが。
 まあ、楽しそうだから良しとしよう。
「先輩の代が抜けたら部も大分変わってしまいますね」
「変わるのは部だけじゃないよ」
「へ?」
 そう言って先輩は2、3歩前へ出る。
そして、くるりと振り返り、少し真面目な顔で俺を指さした。
 真っ直ぐと俺をとらえる人差し指に、思わず立ち止まってしまう。
「これから部を背負うのは、けいすけ君やかおるちゃんなんだから、君らがしっかりしなきゃダメなんだよ。今のままでも充分しっかりしてるけど、今度は後輩をしっかり引っ張っていけるように成らないとね。ってマネジの私が言うことでもないけど」
「なるほど。俺らも変わらなきゃいけないんですね」
「そう。どうしたって時間は立つんだから、変わるんじゃない変わっちゃうんだよ」
「せいぜい悪い方に変わらないように頑張りますよ」
 先輩の青臭い台詞に苦笑いしながら、俺は2、3歩前にいた先輩に追いついた。
 また肩を並べ歩き出す俺らの背中を、爽やかな風が撫でていく。



 授業を終えて部室に向かえば、部室の前で古い洗濯機が怪音を立てて動いていた。
 もう寿命だ、やめてくれもう駄目だ、と言ってるようにも聞こえる不規則な音。
 いつもならば、その場所には先輩がいる。 が、なぜか今日はかおるが立っていた。
「はるか先輩はどうしんだ?」
「ん?ああ、最近先輩も色々と忙しくなってきてるらしい」
「ふーん」
 おそらく先輩も勉強に追われているのだろう。
 こうして、部活が始まる少しの間も削っていかねばならないほど、緊迫しているのかもしれない。
 どうやら嫌でも時間は流れているようだ。
「心配しなくても、練習が始まる前にはくるだろう。お前もさっさと着替えて、たまには少し早くストレッチでもしていたらどうだ?」
 かおるは非難するように言う。たしかにかおるの姿を見てみれば、すでに練習できる格好で……
 そこで、俺は妙な事に気がついた。
「あ、変えたのか?あの短パン」
「ま、まあな。さすがに使い込んでいたから」
 ちょっぴり照れくさそうに指をもじもじさせる。らしくないその仕草に、不覚にもそそられる。
 かおるの新しい練習着は、ブルマタイプのものである。色は青、見る限りは薄手であり、Vラインがなかなかきつい。
 それこそ、運が良ければそういうモノがはみ出しても良さそうなくらいに。
「何かへんだろうか?」
 ジロジロ見てくる俺の視線を不安に思ったのか、かおるは恐る恐ると言った様子で聞いてくる。
 そういう仕草を見て、不意に俺は悪戯心が沸いた。
「んー、その言いにくいんだが」
「何だ?早く言え」
 かおるの目が、不安に染まる。
 それを満足げに堪能しながら、俺はわざとかおるから視線を逸らせた。
「毛が」
「毛が?……毛?」
 しばらく、かおるは首を傾げる。彼女の脳にその情報が伝達されるには、多少時間が掛かったらしい。
 そして、ぼうとした時間を取り戻すほどの速さで股間に手を当てた。
「今すぐ忘れろ!今すぐ記憶から消せ!」
 顔を真っ赤にして、俺に言い寄ってくる。
 しかし、忘れようがない。
 だって俺はそんなもの、見ていないんだから。
「見る気はなかったんだ……にしても、案外濃いんだなぁ」
「濃くなんかない……濃くなんかない!」
 涙目で訴えるかおる。ボーイッシュな容姿や男勝りな言動にも関わらず、意外にかおるは泣き虫である。
 特にこうした羞恥心を煽るような言葉にめっぽう弱い。
「だって皆、薄いって……シャワーを浴びる度にみんなに言われるんだぞ?羨ましいって?手入れが必要ないから良いなぁ、って。なのになのに……」
 段々と言葉尻に涙が混じってくる。
 泣かれてもらっては、困る。練習前に部員を泣かせた、などと言うのが先輩にでも知れたら大変なことになるのだ。
「何てな」
 必死に見上げてくるかおるに、にいと笑いかけてやる。
 そんな俺の笑いに、かおるは再び首を傾げる。当然の反応だ。
「嘘だよ。嘘。いやー、必死になって面白いなぁ、かおるは」
「う……そ?嘘ってことは……」
 股間から手を離し、まじまじとかおるは自分の股間を見ている。
 ときどき少しずらしてみたり、軽くブルマの布地を撫でたりもしている。彼女なりのチェックらしい。
 そして、不意に俺の方を見上げた。
「このぉ、お前。どうしてそういうからかい方をする!危うく信じてしまったではなか!人の弱味につけ込むとは……本当にどうしようもないヤツだな、お前は!くーあっもう!」
 かおるは、悔しそうに地団駄を踏む。なかなかご立腹のようである。
 しかし、そうと思ってもおちょくらずにはいられない。
 いわゆるこれは男の性というやつである。
「いやー、悪い悪いねっ!それにしても、かおるは毛が薄いのか、へぇー」
「う、うっさい!うっさい!私の毛が薄かろうが、濃かろうがどうだっていいだろ!もうお前なんてあっち行け。練習中に死んでしまえ!」
 かおるはさらに顔を赤くして怒鳴る。
 俺はにやけ顔のまま、素早く部室へと退散した。



 練習を終え他の部員達と共に、部室の方へと向かう。
 先輩の出すタオルを受け取り、汗だくになった顔を拭く。そして、手頃なコップを手に取り一気にスポーツドリンクを飲み干した。
 先輩のいるこんな光景も、考えてみればあと数ヶ月もないのだ。当然続くと思う毎日にも、必ず終わりがある。
 そんなことはもちろん理屈ではわかっていた。しかし、それらにはリアリティが欠けていたのだ。例えるなら、鉛筆で描いた色の付いていないデッサンのよう。
 それらは実感するには程遠く、想像するにも朧気。つまり、俺の掴んでいた理屈何てのは本当に曖昧だったのだ。
 人は必ずいつか死ぬし、別れ何てのも生きてればどんな例外もなく味わう。だが、そういう理屈の塗り方を俺はまだ知らない。
「おーい、鈴木」
 不意に掛けられた声に振り返る。振り返れば、顧問が俺を手招いていた。
 どうやら俺にはまだ特別メニューが用意されているようだ。
「疲れているとこ悪いが、一回タイムを計ろう。そのあとはこちらでメニューを指示するから」
「はい」
 正直少しでも先輩と話していたい気もあったが、素直に頷いた。先輩には悪いが、やはり優先すべきは部活である。
 顧問について、100mコースのスタート地点まで向かう。
 ふと、その向こう側に、一人の女子部員が黙々と自主練に励んでいる姿が見えた。
 かおるだった。
 空の端から僅かに伸びるオレンジ色の光を浴びながら、彼女はひたすらダッシュを繰り返していた。
 暗さのために黒い影が走っているようにも見えるその姿は、まるでどこかの夢の世界のようにも見えた。そして不謹慎な話だが、その脚はたまらないくらいに艶めかしかった。
 すらり、と伸びたどこにも無駄な肉のない太股。それは練習着の短さのお陰でそのほとんどが晒され、夕闇に浮かんでいる。
 そんな姿を見て何も感じない男がいるなら、俺はそいつを男と認めない。



 部室をちらりと覗いてから、俺はシャワールームに向かった。
 部室に先輩はいなかった。予備校か、はたまた今日は遅すぎたためかわからない。でも、そんなことはどうでも良いことだ。
 今日は余計なことをしないで済む、それがわかれば良いのだ。期待なんてしてなかった。断じてしていない。
 シャワールームの扉を開けると、一人先客がいた。
 悲しいことに我が陸上部のシャワー室は男女別ではあるが、仕切がない。
しかしまあ、それこそ入り立ての頃は恥ずかしかったりもしたが、今はといえば見られるのも見るのも慣れきっていた。部員の性器を書け、と言われたらかなり精巧に書く自信すらある。
 しかし、そこに晒されている後ろ姿は見覚えもないものだった。しみも傷も一つもない華奢な背中、キュッとしまって上を向いている形の良い尻。部員の中でこんなに綺麗な後ろ姿は見たことがない。
 誰だとは思いもしたが、別に他の部の部員が使ってても、文句を言うつもりはなかった。 そこで水道代を使われたからといって、部費から削られるわけでもない。
 だが、隣に立ってその身体を見て絶句した。
 そいつには大きさこそ小さいが、ハッとするほど綺麗な乳房があった。たしかに乳房だった。つんと乳首が上を向いていて、自己主張までしている。
 そして、視線を下に移せば薄い茂みがあり、その下にはひっそりと秘裂が息づいていて……
 どう考えても、それは男のソレとは違っていて……
 女だ。さすがの俺も気が付いた。間違いなくこの横でシャワーを浴びる輩は、女である。
 俺は顔を確認しようとさらに視線を移し、固まった。文字通り固まった。身体も顔の表情も、もちろん股間も。
「……」
 女も視線に気づいたらしい。瞳がゆっくり開いていく。
 そして……
「きゃぁぁぁ!」
 彼女、かおるに似合わず女の子っぽい悲鳴を上げた。
 そして、凄まじい速さで股間と胸に手を当てる。
「な、な、何でけいすけがここにっ!?」
「それは俺の台詞だ。ここは男子シャワー室だぞ」
「そ、そんなのわかってるが。問題はどうしてこの時間にお前がいるかだ」
 質問の応酬。一向に話しは進まない。
「国体用の特別メニューで遅くなってな。で、お前は?なんだ露出癖でもあったのか?」
 そんな軽い冗談に、彼女は本気で怒ったようで、手が胸と股間から離れるのもいとわず、手を振り回して怒鳴った。
「んなわけないだろ。わ、私が露出癖だなんて、よく言えるな。この年までお父さん以外に裸は見せたこと無いんだぞ」
 腰に手を当て堂々と裸体を見せつけられては、説得力も欠片もない。こいつを露出癖と言わず、何と言えば良いのだろう。
「大体な。シャワー室に入るときは声くらい掛けろ。誰が入ってるかわからないだろ」
 目を瞑って諭すように、俺の前で指を振る。もちろん、股間も胸も隠しはしない。
 形の良い乳房も、つんと上を向く桃色の蕾も、毛の薄い秘部も何も遮る物なく見せっぱなしだ。
「……良いから隠すなら隠せ。露出狂」
 俺の言葉にようやく気が付いたようで、顔を真っ赤にしながらかおるは両手で大事な部分を隠す。
「こ、これは不可抗力と言ってだな」
「わかったわかった」
 やれやれ、と手を挙げ俺は出ていこうとする。
 が、意外な事にその背中に声が掛けられた。
「べ、別に遠慮することはないんだぞ。ここで存分に汗で汚れた身体を綺麗にすればいい」
「ん、ああ」
 正直、意図がわからない。
 しかし、どちらにせよ、シャワーを浴びなくてはならないので、お言葉に甘えることにした。
「じゃあ、悪いな。浴びさせてもらう」
 シャワーの前に立ち、もう一度ノブを捻る。 水しぶきを避けるように、目を瞑る。
 お湯の温かさが固まった筋肉をゆっくりと柔らかくしていく。今、俺は最高の幸せを味わっていた。
「あ、小さくなってく」
 声に思わずノブを閉めた。
「何を見てる」
 目を開いてみてみると、かおるは頬を紅潮させながら、興味深げに俺の股間を眺めていた。
「あ、おっきくなってく」
「実況するなっての!この痴女!」
 股間を手で覆い怒鳴る。
 そして、例の如くかおるは『痴女』と言う言葉に、怒りを露わに立ち上がる。
 だが、立ち上がりかけてそこでバランスを崩した。
 俺は咄嗟に手を引いた。しっかりと手と手を合わせ、引き上げる。
 が、俺の足は無情にも地上から離れていった。水の張った床での踏ん張り方を間違えたらしい。
 両足が空中に投げ出される。コマ撮りしたビデオのようなゆっくりさで、床が近づいてくる。
 いや、床ではなく……

 気が付くと鼻先に何やら柔らかな草のようなものがあった。
 ふんふん。試しに呼吸をして見ると、むせ返るような甘いミルクに似た匂いがした。
 ついに天国にでも来てしまったのだろうか、とそう思って、今度は深呼吸でもしようと口を大きく開ける。
「!」
「ひゃん!」
 何か微妙に湿った物が吸い付く感じと、軽い喘ぎが聞こえる。
 何なんだろう。謎は深まるばかりである。
 試しに舌を出してみることにした。
「んあんっ!」
 湿った柔らかな物に当たる。味は何だろう、今まで舐めたこと無いような味だった。
 そして喘ぎ。俺は色々と考えた末、顔を上げることにした。
 目の前に茂る若草、こんもりと盛り上がる恥丘の上に走る一本の線。
 ああ、ようやく気が付いた。俺はかおるの聖域にいたのだ。
「ひっくっ……」
 すすり泣くような声を聞いて、思わず俺はその声の方へと視線を向ける。
 かおるは必死に泣きそうなのを我慢しているようだった。
「ど、どうした?打ち所悪かったのか?」
「裸を見られただけじゃなく……ひっく…舌まで入れられて…ぐず……正気でいられる女の子がいるか!」
 そんな俺の言葉に、弱々しく、でも怒りを含んだ声でかおるは言う。
 どうやら、彼女は恥ずかしさのために涙を流したらしい。なかなか女の子らしい、と言えば女の子らしいが……
 生憎にも、俺は泣いた女の子の機嫌を取る方法をしらない。
「いや、そのすまん。帰りに飲み物奢ってやるから、な?」
「ひっくっ……うぇえん…」
 むしろ泣き声が酷くなる。
 どうすれば良いのか途方に暮れていると、不意にかおるが口を開いた。
「責任取れ……」
 つまりそれはどういう事か、なんてことがわからなくはない。俺だって馬鹿じゃない。
 だが、それで良いのか。
 それはたしかに、かおるの身体は美しい。 先輩とはまた違ったベクトルの美しさがある。アレを抱いて良いと言われれば、大抵の男は迷わず抱く。いや女すら抱く。そんな中性的な美しさがある。
 だが、だがだ。そんな猿みたいにホイホイと相手を変えても良いモノか。昨日は先輩とセックスし、今日はかおるとセックス。
 それは良くない。実に良くない。良心なんて微塵もないのは自負しているが、そのくらいの節操ってものはある。
「……すまん、それは」
 じわりとかおるの瞳が涙で滲む。
 罪悪感が胸を抉ってくる。またしても、俺は何も悪いことをしていないと言うのに。
「何て嘘だよ。責任な、わかったしっかり取ってやるよ」
 そう言うと、照れたようにかおるは視線を外した。
「優しく……するんだぞ?」

「どうして後ろを向かないといけないんだ?」
 こちらにお尻を向けてはいるが、不服そうにかおるは言う。
「お前のお尻が綺麗だから」
「ふ、ふんっ。趣味が悪いな、お前も」
 口ではそう言っても、まんざらではない様子。
 目の前には、そこだけ日に焼けずに真っ白な形の良いお尻がある。
 これが見たかったのだ。そして、これに思い切りいれてやりたかった。
 でも、きっと男のこんな願望をかおるは理解できないのだろうが。
「脚を開いてくれるか?」
「……こうか?」
 数センチ両脚が左右に開く。ほんの僅か数センチ。
 やはり羞恥心がかおるの動きを制限してしまってるらしい。
「おいおい恥ずかしいのか?」
「当たり前だろ。私はお父さん以外に……」
「裸を見られたことがないんだな。お前のファザコンぶりはよくわかったよ」
 ふう、と息を付く。お父さん大好きなんだな、かおるは。
「責任を取るにも、お前が協力してくれないと取れる責任も取れないなぁ」
「む」
 また徐々に開いていく。ようやく両脚の間に黒い陰が見え隠れするくらいになった。
 でも、本当に見え隠れする程度。もう何とももどかしい。
 両手でがっしりと尻を掴む。
「な、何をする!?こ、この変態!」
 だからその尻にかぶりついた。まさに白桃を食べる要領である。
「ん、ああっ!やめろぉ、けいすけぇ~」
 とりあえず、割れ目に沿って舌を這わしてみる。
 甘い女の子の味がした。甘味、限りなく甘味な味。
「濡れ始めてるんだな。恥ずかしがっているくせに、本当はやりたくてたまらない。とことん素直じゃないなぁ」
「そんな、ことっ……!な…いっ!あんっ」
 割れ目の少し上へと舌を移動させる。目に飛び込むは、きゅっと花開く褐色のアナル。
 俺はその皺に沿って、さらに舌を這わせる。
「あんああんっ!そこは…!そこは!だめっためっ……けいすけぇ、やめてよぉ……お願いだから、見ないで舐めないであああんっ!」
 さっきより強い拒絶。それでも身体を捻って逃げようとしない当たり、快感が羞恥を勝ってしまってるのだろう。
「綺麗だぞ、かおるのアナル。普段ここからしてるだなんて思えないな」
「言わないで!お願いだから言わないで!」
 かおるにとっては、性器を見られるよりアナルを見られる方がさらに恥ずかしいらしい。
 それでももちろんやめてやる気はない。舌をすぼませ、花開くアナルの真ん中に舌を入れていく。
「駄目!駄目だってばぁ!も……あんっ!」
 声も心なしか官能的に、口調もどことなく乙女チックになっている気がする。
 じわりと舌先に苦みのようなものを味わいながら、さらに舌を中に入れていく。
「んあっ!ああんっ!」
 激しい喘ぎを上げ始めたので、舌先を抜く。ここでイかせるつもりはない。
「……どうして止めるんだ?」
「何?もっと続けて欲しかったのか?駄目って言ったから、止めてやったんだけどなぁ」
「くっ……どこまでお前は変態なんだ……」
「さーて今日も遅いし、帰るかなぁ。かなも待ってることだし」
「わかったわかった。つ、続けてくれ」
 きっと伏せたかおるの顔は真っ赤に染まっているのだろう。
「何を?」
「だから……もう!けいすけの好きなようにしてくれ!けいすけがやりたいように私を……その」
「その?」
 わざと耳元に口を近づけ、かおるの羞恥心を煽ってやる。耳元まで赤らめている辺りは、本当にもうむちゃくちゃにしてやりたくなるくらいに、可愛い。
「めちゃくちゃにしろ」
 して、がよかったが命令形でも、かおるにしては上出来である。
 俺は満足気に一人で頷いて、後ろから抱くように彼女の小振りな胸を鷲づかみにした。
「んっ」
 それだけで僅かでも喘ぐかおる。感度は抜群らしい。
 白い胸元を滑るように移動させ、突起に軽く触れる。
「あんっ!」
 こりこりと指先で転がすようにしながら、軽く揉みし抱く。
 こんな小ささでもちゃっかり柔らかい。肌に指が吸い付くように柔らかい。特大のマシュマロがあるのなら、おそらくこんな感じなのだろう。
「ああんっ!はぁ」
 今度は爪で軽く弾いてみる。マシュマロのような乳房と違って乳首にはまた別の感触がある。
 たとえるならゴムのようである。堅さと柔らかさが微妙な案配で混ざり合っている。
「はぁん!けぃすけぇ!んあっ!あんっ!」
 恥じらいもなく俺の名前を呼んでしまうあたり、彼女はそろそろ限界が近いのか知れない。
 だから俺はついに、自分自身を彼女の秘部へと宛った。そそり立つ肉棒は、欲望の権化の名にふさわしく堂々と屹立している。
 しばらく迷うように膣口を探し、ついにその入り口へと俺自身を入れていった。
「んあっん!」
 ペニスが圧迫される。昨日の先輩と比べても大分キツイ。
 処女だからか、彼女が割に筋肉質だからかわかりはしない。ただそのきつさが心地よかった。
 奥に入っていくのがわかる。キツくともゆっくりと俺自身が入っていく。
 華奢な背中をしっかりと抱き、腰を進めていく。
「たいっ!痛い!」
「我慢してくれ。そうしないと、んっ!責任も取れない」
 そうは言っても、俺は労るように腰の動きを遅くする。
「痛いよぉ!痛い……う」
「もう少しだから、な?初めては痛いもんなんだよ」
 励ましつつ、彼女に覆い被さる。
 そして、舌を出し彼女の真っ直ぐに伸びた綺麗な背中に舌を這わせた。
「何をす、る!んふ」
「ここうすれば!はぁ!は、痛みも和らぐだろ?」
 というのは、言い訳に過ぎない。
 正直彼女の綺麗な背中を見ていたら、どうにも舌を出して舐めずにはいられなくなってしまったのだ。
 つるり、とどこまでも滑らかな舌触り。
 見た目だけでなく、舌触りも本当に素晴らしい。
「んはぁっ!あんああ!はあはあ……んっ」
 段々と声は苦痛を感じさせるものから、艶めかしいものへと変わっていく。
 これなら大丈夫だろうか。
 そう思って、俺は激しく腰を突き動かした。
「あっ、あっあっんっ!」
 小刻みに震える声。そのトーンは高くさらに官能的な色を帯びてくる。
 パンパン、と小気味良い音がする。
 打ち付けるたびに感じる彼女の尻の柔らかさは、何とも言えない。
「はあん!イククッチャウヨォ!」
「イクなら……んっあ!いけばいい」
 俺もイキそうなのだ。
 頭に甘いバイアスがかかるのを感じる。オナニーでは決して得られない、甘い甘いオルガスム。
 俺の方が早くイクのを察した俺は、素早くかおるの股の下に手を入れる。
 そして、草の芽のようなクリトリスを指先で捕らえた。
「んあっんっ!駄目だってばぁ!私どうかしちゃう!」
 びくん、と電流が走ったかのように身体を震えさせる。
 触れば触るだけ、びくんびくんと身体を震わせる。
「駄目もうっ!」
 俺も込み上げてきたモノを感じた。亀頭を引き抜き、かおるのその美しい背中にすべてをぶちまける。
 直後、かおるは電源が切れたかように床にすべり落ちた。股間からは赤い血が滴っている。
 処女喪失。俺はたった今、彼女の『初めて』を奪ったのだ。
「大丈夫か?」
「はぁ…はぁ……く」
 何故か、かおるは恥ずかしそうに唇を噛んでいる。
「どうした?」
「恥じているんだ……あんな獣のような声を出して、私はまるで犬か何かみたいではないか」
「いや、俺も声出てしまったし」
 まったくかおるらしいと言えば、かおるらしい。
 気持ちよい事をして、声が出てしまうのは何も恥じる事では無いというのに。
「でも、気持ちよかったんだろ?」
 そう言うと、かおるは耳まで真っ赤にして縦に頷いた。

| 雑記 | 21:34 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ある陸上部員の性渇 一章『快走』②

 涼しげな初夏の夜気が、火照った身体を冷ましてくれる。
 大きく深呼吸し、空を見上げる。すると、雲一つ無い空に満月がぽつりと輝いていた。
 東京は星が見えない。こうして空にあるのは月だけだ。
 それでも月が見えるだけまだ良いのだろう。スモッグで見えない日だって、少なくはないのだから。
「ん?」
 軽い感傷に浸りながら通りを歩いていると、ふと目が止まった。
 通り沿いの店の中にかおるがいるのである。
 何の店だ、と思い看板を見れば何て事はない、おもちゃ屋だった。
 どうせこの後家に帰っても、妹が昨夜の祝勝会の続きをするだけだ。せっかくなので、声を掛けてみることにした。
 店に入り、かおるの真後ろに立つ。店員が怪訝な目が少しばかり痛い。
 しかし、知り合いに声を掛けるだけなのだから問題はないはずだ。
 そして、さり気なく何をしているのか覗き込んでみる。
 それは不思議な光景だった。かおるは、むにむにとぬいぐるみを愛でていたのだ。
 まったくもって不可思議である。女の子らしさの欠片もないかおるが、こんな女の子らしい物をいじっているだなんて。
「何してるんだ?」
 そんな何気ない俺の声に、かおるは弾かれるように振り返った。
「ど、どうしてお前がここにいる?」
 何やらとても慌てふためいている。
 かおるとしてもこういう光景を見られるのが、少しばかり恥ずかしいのだろう。
「質問を質問で返すな。で、どうしてぬいぐるみで遊んでるんだ」
「遊んでなんかいない!た、ただどれを買おうか迷ってたんだ」
 心外だ、とばかりにかおるは怒鳴る。大して変わらないような気がするのは、俺だけだろうか。
「ぬいぐるみ、好きなのか?」
「ふんっ、どうせ似合わないとでも言いたいのだろう?どうせ私は男勝りだからな」
 ぷいっ、と機嫌を損ねたのかそっぽを向く。
 俺はと言えば、ぬいぐるみを抱いて寝ているかおるを想像して思わず吹き出してしまった。
「な、何を笑ってる。失礼この上ないぞ、このっ!」
 手にしたぬいぐるみで、ぼかすか俺を殴る。
 もともとぬいぐるみは、柔らかい素材で出来ているから痛くはない。むしろ、そんなかおるの動作に笑みすら零れてしまう。
 いじらしいくらいに可愛い。
「ああ、もう何でさらににやけるんだ!もうっ」
「悪い悪い。ただあまりにギャップに笑ってしまった」
「ホントに失礼だな、けいすけは」
 ようやく殴るのをやめて、苛立たしげに腕を組む。
 なかなかご機嫌は斜めだ。ここらで少し機嫌を回復してあげなければ、後々めんどうである。
 そうして機嫌を直す材料を探していると、かおるの手にしているぬいぐるみに目が止まった。
 黄色の熊だ。ただ熊にしてはあまりに優顔過ぎるのが、個人的には気にくわない。身体も黄色なことだし、はちみつばかり食べて野生で生きいくだけの闘争本能を無くしてしまった哀れな熊なのだろうか。
 なんて、下らない空想を繰り広げながら、俺は思いついた。
 これをダシに機嫌を直そうと。
「でも、本当に可愛いな。このぬいぐるみ」
 むにゅにゅん、と熊の顔を撫でながら言う。
すると、計算通りかおるは軽く微笑んだ。おそろしく単純なやつである。
「そうだろ、そうだろ。これの良さがわかるだなんて、お前は相当な目利きだぞ」
 本当はそんなこと微塵も思ってないわけだが。
 もちろんそんな事は口にせず、俺は続ける。
「じゃあ買えばいいだろ?金がないのか?」
「いや実はな」
 と言って、かおるはぬいぐるみの棚からもう一つ引っ張り出してきた。
 今度は、けばけばしいばかりにオレンジ色の虎だった。
「これと迷ってるんだ。まあ、ほとんどこの熊の方に気持ちは寄っていたのだが。なあ、けいすけはどちらが良いと思う?」
「うむぅ」
 さっきも言ったとおり、熊の方はあまりに優顔過ぎて気にくわない。あれじゃあ野生はおろか、動物園の熊だって勤まりはしない、とさえ思う。
 だが、虎も虎なのだ。けばけばしいオレンジは百歩譲って許そう。しかし、顔があまりに陽気すぎる。あんな気の抜けた陽気さで渡っていけるほど、インドの森は甘くない。
 しばらく考えてから、この長考がいかに無駄であるかに気が付いた。ぬいぐるみにリアリティを求めてどうするのだろう。そんなことを言い出したら、テディベアはとっくに廃業だ。
「うーん、熊の方かな」
 特に考えもなしに言うと、かおるは良しとばかりに頷いた。
「じゃあ、こっちをけいすけにやろう」
 意味がわからない。
 この話の流れで、どうして俺へのプレゼントになるのだろう。
「えーと、何で俺にそれをくれるんだ?」
「真剣に迷うけいすけの顔を見ていたら、何だか心が動かされてな。お前のぬいぐるみへの愛を見て、私はこれを買う資格がないことに気が付いたんだ」
 やれやれ、と良いことをした時独特のやってやった笑いを浮かべる。
 きっとかおるなりの読心術だったのだろう。
 しかし
「いらないぞ。そもそも俺は買う金がない」
「私が払う。国体出場記念だ」
 な、と満面の笑みで微笑まれては断るにも断れない。
 まったく容姿の良さとは便利なものだ。
「ありがとう。マジすっげー感謝」
 棒読みで言ったことなど意に介さず、かおるはレジへと向かっていった。
 今まで一向に気が付かなかったが、どうやら彼女はかなりの天然らしい。



「ただいま」
 玄関の扉を開け、階段を上っていく。
 俺の家は二階建て。土地は都会の一般的な一戸建ての大きさで、一階はリビング、キッチン、バストイレ、洗面所、両親の部屋という間取りになっている。
 そして、二階部分には俺と妹かなの部屋が二つ宛われている。
 とは言うものの、かなは自分の部屋を使うことはあまりない。極度のブラコンなのだ。
 だから、困ったことに。
 俺はゆっくり自室のドアを開いた。
「あ、お兄ちゃんおかえり」
 平然とかなは俺のベッドに横たわり、漫画を読んでいた。
「……いつからお前と俺の部屋は共有になったのだろう」
「それにしても、昨日のお兄ちゃん格好良かったなぁ。これでこそ、かなのお兄ちゃんだよぉ。東京で一番速いんだもん。お兄ちゃんすごいよ!」
「聞いちゃいねぇし……」
 かなは昨日からソレばっかりだ。
 たしかに自分で言うのも何だが、昨日の俺の走りは素晴らしかった。十点満点だったら文句なしの十点だし、俺と何ら関係のない一般人が見ても感嘆を隠せなかったほどに、心を打つものでもあったと思う。
 それが兄とあれば、喜びも一塩。その気持ちはわからなくはない。が、さすがにこうずっと言われ続けるのは疲れてしまう。
 もちろん喜びがないかと言えば、嘘なんだが。
「ねえ、お兄ちゃん。今日はお兄ちゃんの部屋で寝ていい?」
 漫画本をわきに寄せて、ベッドの上でかなは俺の方へと体を向ける。
 くりくりとした愛らしい目に、幼さのためにふっくらとした丸みを帯びた頬、すらりと長く伸びた美しい黒髪。兄の俺から見ても妹のかなは実に可愛らしい。
「ダメだ。かなももう一緒に寝るような年齢じゃないだろ」
 これは『兄離れ』政策の一環だ。小学五年生にまでなって兄と寝ているのは世間から見れば、いささか異常である。
 小学五年生といえばそろそろ兄を男、自分を女と認識しなければならない年頃なのだ。少し寂しい気もするが、これも仕方がない。
「えー、だってお兄ちゃん。お風呂も一緒に入ってくれないよ?最近冷たいよぉ」
「普通はもうかなくらいの年になったらな。お兄ちゃんと寝たりしないし、お風呂も一緒に入らないんだよ」
「そんなのおかしいよ。よそはよそ、うちはうちだもん」
 むう、とかなは頬を膨らませる。
「普通こういうのは妹から言い出すもんじゃないのか……」
「言い出さないんだからいいの!ねえねえ、一緒に寝てよー」
「とは言ってもなぁ……」
 考えてみれば、かなが小学五年だからというのが問題だけではない。高二にもなって妹と風呂に入ったり、同じ布団で寝たりする俺の問題でもあるのだ。
「どうしてもダメ?」
「ダメだ」
 きっぱりと言い切ると、かなは思い切り肩を落とした。これ以上言い張っても、無駄であることをそれとなく悟ったのだろう。
 そんなしゅん、としたかなの様子を見ていると、まるで何か自分が悪いことをしたように思えてしまう。
 当然の事を言って、当然の要求をしただけなのに……
 妹の悲しい顔を見ていて喜ぶ兄なんていやしない。できればいつでも笑っていて欲しいと、俺は常々そう思っている。
「あ」
 一つ思いついたことがある。
 根本的な解決にはならないが、とりあえず妹の笑顔が見られるもの。実に運の良いことに、俺は今ソレを持っていた。
 すぐにカバンを漁りソレを探しだす。ほどなくして、俺の指が柔らかな物体をとらえた。
「今日から、これを俺だと思って寝ろ」
 ずい、とかなに熊を差し出す。無論、これは先ほどかおるが買ってくれた物である。
 まさかこんな使用用途があるとは思いもしなかった。改めて彼女には礼を言わなければならない。心の中で。さすがに面と向かって言える勇気を、俺は持ち合わせていない。
「……」
 かなはきょとんとした顔で、優顔の熊を見つめている。
「くれるの?」
「ああ」
 すぐに顔を綻ばせる。どうやら気に入ってくれたらしい。
「ありがとう、お兄ちゃん。でも、ホントにもらっていいの?」
 と言いつつ、目を離さないところからして本当に気に入ってしまっているのだろう。
「いいぞ。その代わり大事にするんだぞ」
「うん!大事にする、一生大事にするよ」
 ぎゅっ、と抱き締めてかなは本当に満足そうに微笑んだ。
「だからと言ってはなんだが、俺がかなと一緒に寝なくなることを許してくれ」
 すぐに笑顔を強張らせて、かなは怪訝な顔をする。
「今日の所はだよ?この先ずっとお兄ちゃんと眠れないなんて悲しいもん。だってだって、突然すぎるもん。もっと少しずつかなと寝る日を減らすとか、そういう風にしてよ。そうしないと、かな不安になっちゃうよ……お兄ちゃんがかなの事、嫌いになったんじゃないか、って」
 言葉尻が涙で滲む。
 たしかに考えてみれば急すぎたのだ。一週間かそこらで『兄離れ』をさせようだなんて。
「わかったよ。そうだな、1週間に1回でどうだ?」
「それは少な過ぎるよぉ。ほぼ毎日一緒に寝てたんだよ?お風呂だって2日に1回くらい一緒に入ってたのに……」
 またじわり、と涙を滲ませる。透き通るほどに澄んだ瞳に俺自身が写る。
 嫌が応にもかなを泣かせているのは、自分自身だと知らされる。
 これでいて、本人はまったくもって自覚がないのだから凶悪である。
「わかった週2な」
「各週2だよね?」
「いや、風呂はもう止めよう。さすがに、そのお互いの身体を意識し始める年頃では……」
 そんな俺の言葉に、かなはただ?マークを浮かべるだけ。
 理解できていないのか。まだ小五くらいだとそういうのは意識し始めないのだろうか?
「んー意識って?」
「だから、その……」
 何と言えばよいのだろう。
 『お兄ちゃんのおちんちん見てどう思う?』 という質問はあまりにも卑猥すぎる。
 というのか、間違いなく兄妹間で交わされてはいけない会話だ。断じていけない。
「いや、いい。何にも思わないなら良い」
「良くないよー。すごい気になるもん」
 純粋な好奇心。
 これを無下にはね除けるのは気が引ける。
「だから、かなは恥ずかしくないのか、ってこと」
「恥ずかしい?何を恥ずかしがるの?」
「……裸を見られたりするのって、恥ずかしいことだろ」
「お兄ちゃんはかなに見られるの恥ずかしいの?」
「え?んな事はないけどさ……」
「だったらかなもないよ。ううん、恥ずかしいどころか楽しいよ。お兄ちゃんとお風呂入ると、何だか、何だかね、胸がキュンってなるの」
 胸キュン。
 何とも甘酸っぱい言葉の響き。甘酸っぱいがどこか危険な響き。
 そういう意味ととらえてしまって良いのだろうか。
「……見られるのが、楽しいのか?」
「え?」
 かなは一瞬、面食らったような顔をする。
 そして、もじもじとこちらを伺うようなそぶりを見せながら、小さく口を開いた。
「……そうかもしれない。お兄ちゃんにそういうとこ、見られるのが好きなのかも」
 きっとかなは自分のその感情を、未だにうまく理解できていないのだろう。
 ただ何となく好き、気持ちいい、楽しい。 それが彼女の幼いなりの性欲なのかもしれない。
「ねぇ、お兄ちゃんはかなの裸見てどう思うの?」
 どう思うなどと聞かれても困ってしまう。
 どうも思わないに決まっている。どうか思う兄がこの世にいるのなら、是非ともお目に掛かりたいものである。
「別に。ただ妹と風呂入ってると思うだけだ」
「そうなの?」
 少し驚いたような、残念そうな声でかなは言う。
「でも、かなはかなは……お兄ちゃんの裸を見るとドキドキするよ。その、おちんちんとか見ると特にドキドキするの」
 訴えるような目。必死に感情を吐露するような表情。
 俺の心にも起きてはいけない感情が、起きてきそうな気がしてしまう。
「……それを意識って言うんだぞ、かな」
 沸々と沸き上がる感情を、振り切るように言う。
 ダメだ、妹は妹なのだ。どんなに魅力的に見えても妹は妹なのだ。
「飯、行こうぜ」
 やり切れなくなってそう言うと、かなは素直に頷いた。

| 小説(長編) | 21:32 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ある陸上部員の性渇 一章『快走』①

 窓から射し込む初夏の日差しが、俺の頬を優しく撫でている。
 吹き込む風も朗らかで、これで眠くならないのはむしろおかしいこととすら思う。
 それに今は、飯を食べたばかりの昼休み。昼寝の時間にはぴったりだろう。
 ……と、言うのは午前中の授業をすべて寝て過ごした俺が、言える台詞ではないのだが。
「けいすけ。おい、鈴木けいすけ!」
 そうして船を漕いでいると、不意に俺の名前を呼ぶ声がした。
 正直無視したかったが、この声の主を無視するとロクなことがないのを、俺は知っている。
「何だよ?用件なら手短に済ませてくれ。こっちは眠いんだよ」
 顔を上げれば、思った通り新島かおるが立っていた。
 新島かおるは、陸上部の同級生である。切れ長のツンとした美しい目に、いかにもボーイッシュなかおるを象徴しているかのように短い髪。鼻も口も形の良い顔の輪郭の中に小綺麗にまとまっており、全体からして彼女は、かなり綺麗な部類に入る。
 しかし、その短髪のせいもあって、美少女というよりは美少年に近い。そう見えないのは、ひとえにセーラー服のおかげといえよう。
と言っても、そういうニーズは有り余るほどあるわけで、かおるはかなり男子に人気がある。あと、こういう子には良くあることだが、もちろん女子にも。
「ほお、せっかく国体に出場できるというのに、不機嫌なんだな」
「妹が夜までうるさくてな。昨日は満足に寝られなかったんだよ」
「ふふっ、かなちゃん喜んでいたからな」
 クスクス、とかおるは可愛らしく笑う。何というのか、こういうところだけは女の子らしい。
「というわけだ。用がないなら、寝させてもらう」
「待て待て。まだ何も話してないだろ」
慌てて寝ようとする俺をかおるは引き留める。
「部活の時じゃ駄目なのか?」
「ああ、今話しておきたいんだ。部活じゃみんながいるからな」
 そう言って、かおるは仄かに顔を赤らめる。
 俺のこういう時の知識に間違いがないのだとすれば、これはいわゆる『告白』というヤツではないだろうか。
 俺は心臓に手を当てた。心なしか動悸が速い。国体へ出る枠を競った昨日の決勝戦の時よりも、緊張しているかもしれない。
 しかし、ここは冷静さが何よりも大事だ。ジェンダーフリーが豪語される現代においても、恋愛では常に男子が女子をリードしなくてはならない。
「なななななななな、何だよ。言ってみろよ」
恥ずかしいくらいに動揺している自分に死にたくなった。
「国体出場おめでとう」
 とびきりの笑顔でかおるは言った。普段はツンとしたどこか冷たさを感じる顔だけに、笑顔はとても素敵に見える。それこそ、どこかのファッション雑誌の表紙を飾ってもいいくらいに。
 でも、問題はそんなことじゃない。
「あ、ああありがとう」
 内心ガッカリしていることを悟られないように、俺は作り笑いをする。
 あまり人に媚び諂うのが好きじゃない俺の作り笑いは、この上なく不自然なのは自分でもわかっている。でも、何か変な期待をしていたことに勘づかれるよりは百倍マシだ。
「昨日はみんなが居て、面と向かって言うことはできなかったから……って何だその気持ち悪い笑顔は。お前らしくもない」
 やはりばれた。ばれるのは承知の上だが、気持ち悪いと言われるのは少々凹む。
「営業スマイルだ、営業スマイル。これから陸上誌のインタビューとか受ける機会があるかもしないだろ」
「ふむ、なるほどな。でもそれじゃあ、営業にならんな。人に不快感を与える笑顔では、営業は勤まらないと思うぞ」
 グサリ、とかおるの言葉が胸に突き刺さる。 おめでとう、と言われた喜びよりも、傷つけられた傷のが遙かに深い。
「……本当にお前は何しにきたんだよ」
「ん?ああ。もう用は済んだ、寝ていいぞ」
 そう言って、ひらりとスカートを翻しながら、かおるは出ていった。
 最後にパンツの一枚でも見せてくれれば良いものを、残念なことにまったくもって拝むことはできなかった。
「……貧乳め!」
 呪詛のように呟いた直後、固い筆箱が俺の頭に直撃した。



 五時間目が音楽室だと知ったのは、授業時間が半分過ぎてからだった。仲の良い級友に絶対起こすなよ、と釘を差したのが災いしたらしい。
 手早く支度を済ませ、廊下に出る。授業中の廊下はゾッとしてるほど静かで、ちょっぴり罪悪感が沸いてくる。
 やっぱり、サボりくらいでこんなに心を痛ませる自分は根が真面目なんだろうなぁ、なんて下らないことを思いつつ、階段を駆け上る。
 と
 ドンッ
 正面衝突。女の子の持っていた画材道具らしき物が、四方に散らばる。
 なんてベタな、と思う間もなく、俺は手を差し伸べていた。
 ぶつかった相手は、陸上部のマネージャーの七瀬はるか先輩だったのである。
「大丈夫ですか?はるか先輩」
「うぅ~、痛たった……あ、なんだぁけいすけ君じゃないの」
 案外、腰は強くぶつけたわけではないようで、はるか先輩はすぐに立ち上がった。
 ふんわりとウェーブのかかった長髪に、トロンとおっとりとした可愛らしい目、目鼻立ちもまるでおとぎ話に出てくるお姫様のように愛らしい。
 それに付け加えグラマラスなボディー。服の上からでもわかる豊満な胸の膨らみは、男子ならば必ずと言っていいほど、釘付けになるだろう。
「その……怪我はないですか?」
「大丈夫、大丈夫」
 パンパン、とお尻についたほこりをはたき落としてから、先輩は俺の方を向き直る。
 ジッ、と見つめられると、思わず目を逸らしてしまう。あんまり美しいのも困りものだ。
「あ、何で目を逸らすの!けいすけ君」
「それを俺に言わせますか、先輩」
「ん?」
 眉を潜め、いかにも理解できないという感じ。
 説明するのも照れくさいので、俺は話題を変えることにした。
「先輩。授業中なのに、どうして階段をほっつき歩いてんですか?」
「そっくりそのまま返して良いのかな?けいすけ君」
 ニヤニヤァ、と先輩は微笑む。先輩はほんわかした容姿に似合わず、かなりsっ気が強い。
 何か隠し事をしていればそれを無理に穿ろうとするし、弱味があれば抉ってくるのだ。 まあ、そこがそこで男子に人気が高い理由らしいのだが。
「俺は別に、ちょっと寝過ごしただけですよ。気が付いたら、この時間で……」
「ぷっ!相変わらずけいすけ君は可愛いなぁ」
 先輩はとろけそうな目で僕を見ている。そんな目を真正面から見ようものならそのまま引きずり込まれるのはよくわかるので、あえて目線を逸らしたままにする。
「で、先輩はどうして授業中なのにここにいるんです?」
「日向ぼっこ」
「そんなどっかの美少女ゲームのヒロインみたいなこと言わないでください。真面目な先輩が授業をサボるわけないでしょう?」
「人は変わるんだよ?けいすけ君」
 ずいっ、と指を差し睨んでくる先輩の目は笑っている。つまりは嘘、というわけだ。
「大方、美術のスケッチかなんかでしょう。違いますか?」
 散らかった画材道具をちら、と視界の端で捕らえたので、それとなく言ってみる。
 が、それとなく言った言葉は意外に先輩を驚かせたらしい。
「何でわかったの!?」
 目をまん丸にして、先輩は心底驚いた表情をする。案外こういうとこは馬鹿だ。
 仕方なく、散らばった画材道具を拾い上げながら説明する。
 先輩は納得したように頷くが、その顔は少々落胆しているみたいだ。そんな表情を見ると、超能力だ、とでも誤魔化しておけばよかったかな、とも思ってしまう。
「じゃあ、これで。あと10分でも出るだけ違いますんで」
「あ、けいすけ君」
 呼び止める声に振り返る。
 先輩もまた、かおると同様にとびきりの笑顔でこう言った。
「国体出場おめでとう!」
 眠気が無いせいか、今度は自然に笑みが漏れた。
「ははっ。ありがとうございます」
 そのまま階段を上りきって、渡り廊下に出た。
 窓から見える青空はどこまでも澄んでいて、中庭に生える木々の緑が眩しかった。空気が心なしか爽やかに感じられたのも、決して間違いではないだろう。
 授業に遅れてこそいたが、俺にはまるで世界が祝福しているように感じられて仕方がなかった。



 シャワーを浴びて部室の男子更衣室に戻ると、制服姿のはるか先輩が一人ぽつねんと立っていた。
 昨日の大会の反省等々。身体を動かす練習こそあまりしなかったが、顧問とこれからの事についてかなりの時間喋っていたので、だいぶ時間は立っているはずだ。他の部員の練習が終わってから、ざっと1時間くらいだろうか。
 それなのに、こうして先輩が待っているのはどうしてなのだろう。
「どうしたんです?先輩」
「マッサージしてあげようかなぁ、と思って」
 ニヤニヤァ、と微笑む先輩は妖しさ満点だ。 こんな人に身体を預けられるわけがない。そう思って、着替えを探すが……ない。
 どうやら先手を打たれたらしい。そんでもって、今現在俺の身につけているものは、バスタオルのみだ。何とも頼りない。
 さてどうしようか、何てのは考えなくてもわかる。俺が服を手にするには、先輩に従うしかないのだ。
「マッサージをさせてあげれば、服は返してくれるんですね」
「うんうん。返すよ、返す。だからマッサージさせてね」
 嬉しそうに、首をうんうん頷かせる。実を言うと、先輩のこういったセクハラ紛いのことは、一度や二度ではない。
 でも、さすがに今回みたいに衣服を隠され、強要されたのは初めてだ。
「あの、パンツくらい掃かせてくれるのは……」
「だめだよ、それは。楽しくないじゃない」
 一瞬、先輩は厳しい顔になる。こういうところからして、今日の先輩は普通じゃない。
 そんな少し怯えた俺の表情を瞬時に察したのか、先輩は安心させるように微笑んだ。でも、その笑顔はどこか嬉しそうだ。きっと俺の怯えに、興奮し始めてるのだろう。
「国体に出たご褒美なんだから、そんな顔しないで、ね?」
 いっその事そんなご褒美いらねぇよ、とでも言ってやりたかったが、内心期待をしている自分自身もいた。
 相手は10人が10人自信を持って美少女だと言うであろう、はるか先輩だ。胸が高鳴らないわけがない。
 俺はゆっくりと、更衣室の端にある簡易ベッドに俯せになった。
「ほ、ほんとにマッサージだけにしてくださいねっ!」
 ついどっかのツンデレキャラのような口調になってしまう。
 でも、なかなか素直になれないのは性格だからしょうがない。気持ちはもうとっくにそういう事をしたいと思っているというのに、まったく俺という人間も不便なもんだ。
「さてどうかなぁ?けいすけ君がお利口さんにしてたら、考えてあげるよ」
 そう言って、先輩は何とも官能的な動きで背中を撫で上げてくる。
 というか、これはすでにマッサージではない。それでも先輩の手は止まない。絶妙な手捌きで首筋や背筋を撫で回していく。
「はふぅ……」
 まさか背中を撫でられただけで、声が出るだなんて……
「へえ、背中を少し触っただけで喘いじゃうなんて、けいすけ君って敏感なんだぁ、ふふっ」
 脳がとろけそうなくらいエロティックな笑みを、先輩は浮かべる。
 恥ずかしい。男なのに背中を撫でられただけで喘いでしまうのは、いくらなんでも恥ずかしい。
「はぁっ…」
 でも、それでも、つーとじっくり味わうような指の動きにまた声が漏れてしまう。
 それにつられて、じんわりと股間が大きくなってくるのがわかる。俯せだから良いものを、これが仰向けだったらすぐにでも俺の肉棒は天を向いていただろう。
「背中だけでこんなに楽しんでもらえるなんて、先輩うれしいな」
 本当に嬉しそうに先輩は甘ったるく、耳元でささやく。
 その吐息がまた何とも刺激的で、頭が痺れてきそうだった。
「でも、これじゃあ先輩が物足りないなぁ。もっとけいすけ君をめちゃめちゃにしてあげたいし」
 きっと、それってご褒美じゃないんじゃ、ってツッコミは無意味なんだろう。
「じゃあ、けいすけ君仰向けになってくれる?」
「ええ?あ、仰向けですか?」
 それはマズイ。
 せめてあと数分くれなければ、このムクムクと大きくなってしまった肉棒が治まることはなさそうなのだ。
「ちょっとだけ待ってもらえます?」
「ダメ。マッサージは練習後すぐにやるから意味があるんだよ?」
「うっ……」
 それはたしかに正論だ。マッサージとは筋肉が効果しないうちにやるからこそ意味があるのだ。
 でも、それはあくまで先輩のこの所為がマッサージであれば、ということで……。まあ、そんなことを言っても無駄なのがわからないほど俺は馬鹿ではない。
「わかりましたよ……もうっ」
 しぶしぶ仰向けになる。
 案の定、俺の肉棒はタオルの上からでも充分わかるほど勃起していた。ものすごい存在証明である。
「あ、お利口さんしてなかったね、けいすけ君」
「これは俺じゃないです。俺の分身です……か、らぁぁぁぁってちょ、せ、先輩」
 先輩は何のためらいもなく、俺の上に載ったタオルを取り去った。
 剥き出しになる肉棒。古い蛍光灯の粗末な明かりに照らされたソレは、普段見るよりはるかに禍々しいもののように見えた。
「だいぶ筋肉が硬化してるね。これはマッサージしてあげないと」
 先輩の手が柔らかく肉棒を握る。先輩の手の温もりが直に伝わってくる。
 ドクドクと波打つ俺の海綿体を、先輩はたしかに感じているのだ。
 そして、当たり前のように肉棒を上下に動かした。
「せ、先輩……それは、マッサージじゃなくて手コキです……って」
 今さらそんなことを言うのは無駄なのだが、せめてもの抵抗として俺は叫んだ。
 先輩の繊細な指が上下に動きながら、亀頭に触れる。電撃が走るような快感が背骨から駆け上っていく。
 それでも先輩の手は止まない。それどころか、今度は尿道口を小指で愛撫をし始める。 くすぐるように優しく、本当に優しく愛撫する動き。ただでさえ、イきそうなのにその動きでまた拍車がかかる。
「ふぁぁぁ、ふぁ……せ、先輩やめてくだ……」
 先輩は亀頭を愛撫する手を休め、ゆっくりと片手を玉袋の方に下ろしてきた。
 そこで表面をほんの少し撫で回した後、先輩の手はさらに下へと降りていく。
「……っ……ああっ」
 先輩の手が最終的に到着したのは、玉袋と肛門の間の男のGスポット、蟻の門渡りだった。
 さわさわと這うように先輩の指は動いていく。堪らない快感が身体に満ちていく。声を出そうと思わなくても、自然と声が漏れ出てしまう。
「ふふっ。けいすけ君ったらそんなに喘いじゃって、まるで女の子みたい」
「もう……先輩。で、出ちゃいますぅ!」
 頭が真っ白になる。そして、数秒ボウッとしてから、ああ出たんだと気が付いた。
 股間の方を見れば、僕の暴れん棒が先輩の服をちゃっかり汚してくれちゃっている。
「すみません、先輩。俺やっちゃったみたいで」
「いいよ、いいよ。私から言ったことだし」
 でも、と言葉を切ってから先輩はさらに続ける。
「でもぉ。もし申し訳なく思うなら、もう一つ先輩のお願い聞いて欲しいな」
 先輩はすがるような目で俺を見る。果たしてこんな目をされて、断れる男がこの世にいるだろうか。
 まあ、少なくとも俺にはできない。
 仕方がない、そんなニュアンスを滲ませながら俺は口を開いた。
「しょうがないですね。しょうがないから、先輩のお願い聞いてあげますよ」
「その言葉に二言はない?」
 悪戯っぽく先輩は微笑む。
「ええ、男に二言はありませんよ」
「けいすけ君、今度は自分で言い出したんだからね。ふふっ、覚悟してね」
 覚悟。武者震いがした。きっと先輩はまた、俺を気持ちよくさせてくれるに違いない。
 先輩は制服に手を掛けた。真っ赤なリボンが可愛らしくもあるセーラー服とスカートを脱ぐと、下着姿が露わになる。
 凹凸のくっきりとした身体のラインは、息を呑むほど魅力的だった。また、白い下着は先輩の清純さを物語っていて、どうしようもない俺の性欲を極限まで煽っていった。
 そのせいか、さっき出したばっかりだって言うのに、もう肉棒は元気になってしまう。
「そんなにジロジロみないでよ。恥ずかしいよ」
 俺が目を皿にして見入っていたせいか、先輩は少し恥ずかしげに下着姿の自分を隠す。
 何というのやら、よくわからない人だ。
「どうせ脱ぐんだから、変わらないじゃないですか」
「私は脱いでるところ見られるのが一番恥ずかしいの。なんでけいすけ君には、わからないかなー」
 先輩には先輩の理念があるらしい。
 詳しく聞いたところで何の特にもならないだろう。そう思った俺は、名残惜しくも先輩から目線を外す。
 目を瞑ると、こそこそ、と布の擦れる音がした。どんな馬鹿だってその音を聞けば、わかるだろう。
 先輩が今、裸になっているのだ。生まれたまんまの姿で、俺の目の前に現れるのだ。
 ごくり、と思わず息を呑む。あの下着の下にあるであろう、先輩のすべて。それを想像しただけで、ものすごい量の血液が下半身の方に流れていく。
「見て、いいよ」
 目に飛び込む先輩の裸体に俺は思わず溜め息が出た。
 豊満な乳房の上にちょこんと可愛らしく乗っかる桃色の蕾、引き締まったウエスト、その下に放射状に広がる思わず撫で上げたくなるほどに滑らかな陰毛。
 美に完成があるのだとすれば、まさにそれは先輩の身体だろう。そう言っても過言ではないくらい、先輩の裸は美しかった。
「何か変?」
 ジッ、と見つめる俺を先輩は訝しげに見る。
 変なわけがない。俺はただ、こんな美しいものを見たことが無いから。
「いえ、ただ先輩が綺麗だから。つい、言葉を失ってしまって」
「ふふっ、ありがとう。でも、見たからには、しっかりシてくれなきゃね?」
 そう言って、先輩は俺の太股あたりに腰掛ける。
 それにつられて、肉棒はこれ以上ないくらい勃起した。
「まったくとんだ暴れん坊さんだね」
 先輩はゆっくりと肉棒の上にと移動する。
 そして、秘裂をぱっくりと口を開くと、サーモンピンクの粘膜がほんの少しだけ顔を出した。
 あまりそういう知識のない俺でもわかる。おそらく先輩は騎乗位というヤツをやろうとしているのだろう。
「やる、んですか?」
「うんっ!」
 さも当たり前のような顔をされてしまう。
 まあ、俺としてもここまできてやめられたら、それはそれで困ってしまうのだが。
「んっ……」
 先輩は、肉棒をゆっくり甘く噛み締める見たいに入れていく。
 徐々に肉棒への圧迫が強くなるのがわかる。入っているのだ。入っていくのだ、先輩の中に。
「ん、あっ……」
 先輩軽く喘いだ。そして、ゆっくりと動き出す。
 その先輩の動きに合わせて、俺も少しだけ腰をついてみる。
「あんっ!あんっ!……けいすけ君いいよぉ、いいよぉ!」
 あまりの締まりの良さに、早くも俺はイきそうだった。
 それでも、先輩はなお激しく腰を上下させる。俺も、負けじと腰を振る。
「あああんっ!はいってるよぉ!けいすけ君がはいってるよ」
 動きに合わせて、豊かな胸がばいんばいんと心地よく揺れる様子が、また俺の興奮を煽った。
「せ、ん……ぱいは卑怯です。…あふぅ!こんなに綺麗なんて…ああっ!」
 思わず喘いでしまう。男だというのに、先輩と同じくらい喘いでしまう自分に情けなくなった。
 俺は膣の奥に擦りつけるように、深く深く先輩を突いた。
「ああんっ!そこっ!そこぉ!そこだよぉ!」
 そうは言っても、限界が見えてきそうだった。
 甘い溶けるような快感が頭の中に広がっていく。
「んぁっ!先輩、もう俺出そう、ですっ!」
 そうして、先輩の秘裂から抜こうとする。
 が
「はあん!あんっはあ……いいよ、中に出して」
「でも」
「大丈夫、だから。んっ……私もあと少しでイけそう」
 俺はお言葉に甘えることにした。出して、そして一緒に果てるのだ。
 先輩の腰の動きが、よりいっそう激しくなる。
 秘裂の中から絶えず出てくる愛液がより、卑猥に見えた。
 どくどくどくん
 肉棒が脈打つ。ああ、しっかりと俺は先輩の中で果てたのだ。
 先輩も果てたのか、俺の方へとゆっくり倒れてくる。
「はぁ……ご褒美、満足してくれた?」
 胸板の上がすごく暖かい。むにゅり、とした先輩の胸の感触が何とも言えず心地良い。
「とても、満足できましたよ。本当にありがとうございます」
 そう言ってあげると、先輩は嬉しそうに胸板の上で頬ずりをした。

| 小説(長編) | 19:29 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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