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ロリでオタでも

旧名・ロリでオタでも早稲田を目指す

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ある陸上部員の性渇 二章『迷走』②

 雨が降っていた。強く強く俺の罪を洗い流すかのように激しく

「くそっ!」
 俺は悪態をついた。思った以上にかなは重かったのだ。
 だが、悪態を付く理由はそれだけではない。
 午前2時半。
 家を出る前に気づくべき事だったのだが、もうとっくに終電の終わってしまった時刻である。
 つまり移動手段は車のみ。しかし、もちろん車の免許など持っているわけもない。
 そうなると手段はたった一つ。
 俺は車通りの皆無な道路に手を挙げた。



 今日はついているのかもしれない。
 あの時間、あのような場所でタクシーを捕まえるのは、なかなか容易な事じゃない。
「にしてもお客さんも物好きですねぇ。こんな時間から奥多摩へ登山ですもんね」
 酷く上機嫌に運転手が話しかけてくる。
 おそらく酒でも呑んでいるのだろう。ミラー越しに映る顔はほのかに赤らんでいた。
 年齢からすると、そう年のいっているようには思えないが、親父同様疲れた顔をしている。そのため、妙に老けて見えた。
「かくいう私もね、大学時代は登山部に入っていましてね」
 何と言うこともない世間話。
 もちろん、そんな世間話に耳を傾けてやるつもりはさらさらない。
 俺は退屈しのぎに窓に目をやった。視界は完全に雨によって遮られている。こうも強く雨が降ると、埋めに行くのも容易なことではないだろう。
「明日の天気はわかるか?」
「雨ですよ。こんな調子で一日振り続けるんだって」
 話を途中で中断させられたからか、運転手は少し不機嫌そうに答えた。
「それでこの前南アルプスに登りに行った時…」
 退屈な話がエンドレスで続くことを察し、俺は気怠げに目を瞑った。

 ほどなくして、運転手の会話が止んだ。
「どうかしたか?」
「どうかしたかも何も。お客さんが聞いてくれなきゃ何を話したって意味がないでしょう。」
 ミラー越しから皮肉混じりに運転手は、笑いかける。
 たしかに正論だ。どうせ聞いて貰えない話をすることほど、不毛なことなどない。
「それはそうとお客さん?」
「ん?」
 ミラー越しに運転手と目が合う。
 彼の目は笑っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。
「失礼ですが、もしかして……」
 運転手はそこで言葉を切る。そして、ちらりと大きめの旅行鞄へと視線を写す。
 どうやら、この雨の中深夜2時に旅行鞄で登山に行く客の異常さに、ようやくこの運転手も気が付いたらしい。
「山に何かを捨てにいくつもりじゃありませんか?」
 ここで言い逃れしても仕方がない。それに良い言い訳も思いつかなかった。
「まあそんなとこだ」
 さらりと何てことないように言ってやる。
「そうですか」
「通報するか?」
 俺の言葉を聞き、また視線を俺の顔へと写す。
 それから急に運転手は吹き出した。
「するわけないでしょう」
「何で?」
「何でって、お客さんもおかしなことを聞くもんですね」
 それもそうだ。
 俺は通報されないという事だけに、満足すればいい。理由がなんであろうと関係のないことだった。
「念のためだ、念のため」
「そう言うのに首を突っ込みたくないんですよ」
 たしかにその考えは間違っていない。
 しかし
「いいのか?犯罪者を野放しにしても」
 それを聞いてまた運転手は吹き出した。
「ますますおかしな人だ」
「いやあんたがおかしい。どうするんだ?俺がまた犯罪を犯したら」
 犯罪者が軽犯罪者に説教を垂れている。何とも奇妙な光景だった。
「どうするも何も。関係ないじゃないですか」
「関係ない?」
「あなたが人を殺そうがドラックをしようが、私には何の関係もないんですよ」
「俺はあんたの家族を殺すかもしれないぞ?」
「あなたがそんなメリットのなく、面倒なことをするとは思えませんが?」
 確かにそうだった。
 助手席にある運転手カードから得られる情報は名前と会社名しかない。そこから自宅の住所を割り出し、殺しに行くのは結構な労力がかかる。
 まず会社に電話しただけではこのご時世、住所は教えてくれないだろう。
 そうなると直接会社に出向かねばならない。だがそこでも直接出向いたからといって教えてもらえるとは限らない。
 そして教えてもらって殺したとしても何の見返りもない、ただ罪が増えて行くだけだ。
 本当に無駄、徒労以外の何ものでもない。
「わからないぞ?」
 それでもここで引き下がるわけにはいかなかった。
 言い出してしまった手前仕方がない。俺は運転手が参った、というまでこのつまらん議論を続けるだろう。
「では、もし私が今あなたを通報したらどうします?」
「それは……」
 俺は思わず口ごもる。殺すに決まってるからだ。
「口封じのために殺すでしょう」
 見透かしたような笑みを浮かべながら、運転手は言った。
「ああ」
 否定しようもない。通報されても殺さなければ、今自首しても同じ事である。俺は捕まらないために逃げているのだ。
「わざわざわたしが命の危険を冒してまで通報するのと、通報しないで家族が殺されるという極僅かな可能性に怯えるのでは、あなたならどちらを選びますか?」
「わかったよ、わかった」
 手を挙げてお手上げのポーズをする。
「やっとわかってくれましたか」
 やれやれ、と運転手は息を付き
「で、話は変わりますがね。雲取山の…」
 またつまらない話を始めた。
 再び退屈になった俺は気怠げに目を閉じた。
 寝ておこう。明日の穴埋めはなかなかの重労働である。
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| 雑記 | 21:39 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑















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